こどもとIT
教育とデジタルをめぐる「出口のない会話」は、もうおしまい
~“1人1台端末”GIGAスクール構想の上に、どんな「未来の教室」を創るか④
2021年11月4日 06:45
本連載は、世界各国が取り組むこれからの教育を見据えつつ、経産省とさまざまな学校での実践事例を元に、実現可能な「未来の教室」のありようを記した浅野大介氏(経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長/デジタル庁 統括官付参事官)の著書『教育DXで「未来の教室」をつくろう~GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか』(学陽書房刊)より、序章の内容を5回にわたって掲載します。
「教育とデジタル」というと、我が国では20年近くもこんな会話が繰り返されました。
「多くの先生はパソコンやネットを教育に使う必要性を感じていない」
「教師がパソコンに習熟する前に生徒にパソコンを渡したら、学校が混乱する」
「教師が多忙でパソコン研修の余裕などない」(だから多忙も解消しないのに)
「学習のデジタル化は格差を広げてしまう」(それはある種のデマなのに)
「教育は“流行”に踊らず“不易”が大事だ」(デジタルはもう社会基盤なのに)
この手の「出口のない会話」に早く終止符を打たないと、 世界の教育がこの先どう進化していこうと、日本では10年後も同じ堂々巡りが続く気がしました 。文部科学省も教育界でのこうした異論や誤解に手を焼き、デジタル化に向けた大胆な財政出動にも踏み込めませんでした。そんな光景を眺めながら、経済産業省で未来の社会での「人の幸せ・社会の活力」を考えていた私たちは、文部科学省などと一緒にこの状況を打開する方法を考え始めました。
そうして「未来の教室」プロジェクトを立ち上げ、参画する全国の小・中・高校を訪ねると、「明るい未来予想図」がはっきり見え始めたのです。「未来の教室」実証校でひとたび1人1台端末が使われ始めると、まず生徒が変わりました。EdTechで自学自習を始めて自分なりの学び方を模索し始め、クラスを飛び越えて対話的に探究的に学び出しました。
そして先生たちはそんな生徒の変化が嬉しくて、従来の「一律・一斉・大量生産型」の指導法を捨て、学習ログを味方にして、個々に寄り添う「コーチング型」の指導を始めたのです。
そんな「明るい未来予想図」が見え始めたからこそ、 まずは一気に国庫補助金を投下して学校のICT環境整備を済ませる必要を感じました 。
同じ国費でも「各自治体にお渡ししてある地方財政措置の中でやりくりしてね」とお願いするだけでなく、 最初は国庫補助金もドンと投入して、「国の本気」を自治体にビシビシ感じていただく必要がありました 。
2019年10月の消費税増税の前後に大型の補正予算が編成されるのはだいぶ前から予測がついていましたので、「一発勝負」を仕掛ける相談を文部科学省の幹部の先輩方と重ねました。特にこの年の秋は毎日毎晩、休日も返上で、電話やSMSで細かに連絡を取り合い、財政当局の納得を得るための理屈を整え、総理官邸や与党の国会議員のご理解・ご支援をいただくべく説明に駆け廻り、組織の壁を越えて力を合わせて成就したのが「GIGAスクール構想」でした。
いまはまだ、 学校にICT環境を整備する「土管工事」を終えただけで、教育DXなど始まってすらいません 。私たちは教育DXの「入口」にたどり着いただけです。
数年後、配った端末が学校で十分使われず「4万5000円のデジタル文鎮」と化すのか、「主体的・対話的で深い学びへの転換」を実現する道具に化けてくれるのか。
いま、学校現場も、政府にいる私たちも、その「分かれ道」に立っています。
教育DXとは「学校ICT環境整備」のことではありません。GIGAスクール構想で一気に整備したICT環境を土台にして、学校の「シゴトの構造」(生徒の学び方、先生の働き方)をすっかり「生まれ変わらせること」です 。教育界のしがらみとは無縁な経済産業省だからこそ、また企業も行政もDXで生まれ変わるいまだからこそ、「生まれ変わる学校の姿」を世に問います。そのほうが文部科学省も「動きやすい」からです。
それが、経済産業省「未来の教室」プロジェクトです。
(第5回へ続く)