こどもとIT
「主要教科」の意味も変わる「未来の教室」
~“1人1台端末”GIGAスクール構想の上に、どんな「未来の教室」を創るか③
2021年11月3日 06:45
本連載は、世界各国が取り組むこれからの教育を見据えつつ、経産省とさまざまな学校での実践事例を元に、実現可能な「未来の教室」のありようを記した浅野大介氏(経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長/デジタル庁 統括官付参事官)の著書『教育DXで「未来の教室」をつくろう~GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか』(学陽書房刊)より、序章の内容を5回にわたって掲載します。
本来、学校という全人教育の場では 「面倒臭くて、手間のかかる、答えのない問い」に向かう「あっち行ったり、戻ったり」の探究・協働・試行錯誤の時間 がもっと大事にされるべきです。そのためには「答えのあるお勉強」はEdTech教材のフル活用で効率的に習得し、「探究・協働・試行錯誤」の時間を最大限捻り出す必要があります。
そもそも「答えのあるお勉強の指導」では、学校はサービス業としてAI型教材などを生み出す教育産業の進化に勝てません。この「お勉強ドメイン(領域)」では学校は教育産業と張り合わず、 教育産業が生み出すEdTechを使いこなす側に立つ (つまり「他人の褌で堂々と相撲をとる」)べきです。そして 「面倒臭くて、手間のかかる、答えのない問い」に集中すべきです 。大学入試改革が頓挫して教育産業は「探究ドメイン(領域)」に出てこないため、学校だけが頼みの綱です。専門性のある研究者や企業人など外部人材の協力を得て探究を進め、教員も生徒もともに成長を続ける機会にすべきです。
そして、「未来の教室」では学校における「主要教科」の考え方も大きく変わるはずです。 「ホンモノの課題」に向き合う「探究・情報・技術・家庭・音楽・美術・保健体育、特別活動」が「主要教科」 と呼ばれ、 「英語・国語・数学・理科・社会」はそこに活かされるツール という位置づけに変わるでしょう。こうした考え方は、まず2030年代の学習指導要領の中には正式に、色濃く反映されていって欲しいところです。
2018年1月に発足した『「未来の教室」とEdTech研究会』(座長:森田朗 東京大学名誉教授)では、130名を超える教育長・校長・教員やEdTech事業者の皆さん、そして中高生・大学生とも議論をして10項目からなる 「未来の教室のラフ・スケッチ」にまとめ、2018年6月にまとめた「第1次提言」に盛り込みました 。これが、「未来の教室」プロジェクトで実現すべきと考える「十則」となりました。
① 幼児期から「50センチ革命×越境×試行錯誤」をはじめる
② 誰もが、どんな環境でも、「ワクワク」(遊び、不思議、社会課題、一流、先端)に出会える
③ 学習者が「自分に最適な、世界水準のプログラム」と「自分に合う先生」を幅広く選べる
④ 探究プロジェクト(STEAM(S))で文理融合の知を使い、社会課題や身近な課題の解決を試行錯誤する
⑤ 常識・ルール・通説・教科書の記述等への「挑戦」を(失敗も含め)「学び」と呼ぶようになる
⑥ 「教科学習」は個別最適化され、「もっと短時間で効率化された学び方」が可能になる
⑦ 「学力」「教科」「学年」「時間数」「単位」「卒業」等の概念は希釈化され、学びの自由度が増す
⑧ 「先生」の役割は多様化する(教える先生、教えずに「思考の補助線」を引く先生、寄り添う先生)
⑨ EdTechが「教室を科学」し、教室は「学びの生産性」をカイゼンするClass Labになる
⑩ 社会とシームレスな「小さな学校」に(民間教育・先端研究・企業/NPOと協働、企業CSR/CSVが集中)
この「十則」が描いたのはまさに「誰もがそれぞれ満足できる」「ホンモノの課題から始まる」学校の姿です。生徒一人ひとりが特性や事情によってたくさんの選択肢を「いいとこ取りの組み合わせ」できる教育DXの姿を描きました。
「教育とデジタル」、相容れなかったこの2つのお見合いを成就させて、トランスフォーメーション(生まれ変わり)を進めてみませんか。
(第4回へ続く)