こどもとIT
「誰もがそれぞれ満足できる」「ホンモノの課題から始まる」学習環境に
~“1人1台端末”GIGAスクール構想の上に、どんな「未来の教室」を創るか②
2021年11月2日 06:45
本連載は、世界各国が取り組むこれからの教育を見据えつつ、経産省とさまざまな学校での実践事例を元に、実現可能な「未来の教室」のありようを記した浅野大介氏(経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長/デジタル庁 統括官付参事官)の著書『教育DXで「未来の教室」をつくろう~GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか』(学陽書房刊)より、序章の内容を5回にわたって掲載します。
教育DXとは「学校のICT環境整備」のことではなく、整備したICT環境を活用した「学校のシゴトの構造」のトランスフォーメーション、つまり 「生徒の学び方と先生の働き方の生まれ変わり」 のことです。
こうして生まれ変わる学習環境を、 私たちは「未来の教室」と呼んでいます 。
それは従来の一律・一斉・大量生産型の学習環境とは違い「子どもは一人ひとりみんな違う」ことを大前提にした 「誰もがそれぞれ満足できる」 学習環境、そして「単なるお勉強」ではなく社会や生活の 「ホンモノの課題から始まる」 学習環境です。
そんな学習環境を全国あまねくどの地方にも、どんな家庭環境の子にも届けるための必須アイテムがEdTechです 。それはEducation(教育)とTechnology(テクノロジー)を合わせた造語で、デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授によれば「デジタル技術を活用して教育に大きな変革をもたらすサービスや技法、そこから生まれる教育イノベーション全体を指すもの」です。
たとえば、アメリカの大学ではMOOCs(ムークス/ Massive Open Online Courses)と呼ばれるオンライン講義プラットフォームが生まれ、パソコンやスマホで世界中から無料で一流大学の最先端の講義をビデオ視聴でき、確認テストにアクセスしながら学習できます。EdTechの登場で学習スタイルには様々な選択肢が生まれました。
誤答の原因から学ぶべき場所を推定してくれるAI型教材、オンライン英会話をはじめ、たくさんのEdTechが存在します。それらの活用によって、大学のみならず小中学校でも高校でも、一律・一斉・大量生産型で「ライブ限定での講義」は「何度でも再生可能な動画」に姿を変えるでしょう。 中学や高校の先生が同学年5クラスで同じ内容の講義を5回話して回る必要はなくなり 、先生は動画を踏まえた深い議論や、相談相手としての役割に集中できるようになるでしょう。
それは、居場所や学年や時間の制約も受けず、一人ひとり違うトレーニングプランを先生との「約束と習慣」のもとで主体的に実行する、新しい学びの姿です。
そして、 日常生活や社会課題や先端科学などの「ホンモノの課題」に向かい 、同じ課題に向かう学校内外の仲間との協働で、 「ヨコ割り」の探究と「タテ割り」の教科知識がつながる 。そんな「生きた学び」を、様々な職能に分化されたたくさんの指導者・支援者が「チーム」で助けてくれる学校の姿です。
学校は、「なんでもかんでも教科書や教科書準拠教材で学ぶもの」「なんでもかんでも教員免許を持った教員が教えるべき」「先生は自作プリントを作り、綺麗な板書と上手な講義をするべき」「生徒はいつも集団で対面して過ごすべき」といった、無数の情緒的な「べき論」や現代のテクノロジーの活用可能性を無視した古臭い制度に縛られています。しかし、せっかく「未来の教室」を構想するのなら、2025年前後までに集中的に制度改革も行う前提で「学校の当たり前」を一度捨てて考えるのが建設的なはずです。所詮は人間のつくった制度や慣習なのですから。
教育DXで生まれる 「未来の教室」では、世の中にあふれる優れたEdTech教材、指導者・支援者、時間や場所も融通無碍に組み合わせて学ぶことが可能になります 。たとえば教育YouTuberの葉一さんの無料講義動画、予備校のカリスマ講師が語るスタディサプリなどの講義動画をどんどん生徒が使い、先生も生徒もLMS(学習管理システム)上に「個別学習計画と学習ログ」や単元コードによって学習ログを整理して学習到達度を確認しながら学び、評価する、そのような学びが容易になります。
こんな教育DXを日本中の学校で無理なく実現することが、生徒のよりよい学びを支えるだけでなく、先生自身の時間的余裕を保障し、先生も職員室を飛び出して学校外の人材と関わり、楽しく学び続けるための「唯一解」でもある気がするのです。
(第3回へ続く)