こどもとIT
「1人1台端末配備」という政策転換から始まる「教育DX」
~“1人1台端末”GIGAスクール構想の上に、どんな「未来の教室」を創るか①
2021年11月1日 06:45
本連載は、世界各国が取り組むこれからの教育を見据えつつ、経産省とさまざまな学校での実践事例を元に、実現可能な「未来の教室」のありようを記した浅野大介氏(経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長/デジタル庁 統括官付参事官)の著書『教育DXで「未来の教室」をつくろう~GIGAスクール構想で「学校」は生まれ変われるか』(学陽書房刊)より、序章の内容を5回にわたって掲載します。
政府では、2021年9月に発足したデジタル庁に文部科学省・経済産業省・総務省のGIGAスクール構想の関係管理職が併任され(私もそのひとりです)、省庁のタテ割りを溶かしたワンチームでの教育のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の検討を進めています。
伏線は数年前に遡ります。2019年12月に閣議決定した「GIGAスクール構想」による「国主導で補助金を投下して1人1台端末環境を整備」の方針は、「自治体主導で、地方財政措置を使って3クラスに1クラス分の端末環境を整備」という従来方針の「大転換」でした。その伏線としてさらに、その1年前の 2018年から経済産業省は「1人1台」前提の「未来の教室」実証事業をスタートしました 。それは「先生も生徒も、ネットと安全なクラウドに常時接続し、1人1台端末を“文房具”として普段使いする環境」がもたらす学びの効果を実証するためでした。
GIGAスクール構想によってこれが現実になる今後、教育には大きな変化が起こります。文部科学省所管の「学校教育」と、経済産業省所管の「民間教育」や「グローバル産業・地域産業・科学技術イノベーション」の関わりが下の図のように変わるはずなのです。
生徒も先生も民間教育発のデジタル教材(EdTechの一類型)を選んで自由に使えて、Google検索もZoomでのビデオ会話も自由自在になることで、学校にいながらにして真ん中の「融合領域」にいることができるわけです。
要は「学習環境や手段の選択肢」が桁違いに豊かになり、世界中・日本中の知恵を集めた「いいとこ取りの組み合わせ」によって一人ひとりに最適な学習環境をつくれるはず、そして都市・地方間の格差や家庭環境の格差がかなり解消されるはずなのです。
そこでは「いままでの一律・一斉・大量生産型の教育ではなく、一人ひとりが学習ログ(記録)の分析によって自己認識を深め、自律的に自分に適したEdTech教材や指導者や学習場所を組み合わせ、気づけば学習指導要領が求める資質・能力はそれなりに身についている学び」、そして「日本中・世界中からネット・リアルを問わず知識を集め、対話し、思考する中で、大学や企業が取り組む“ホンモノの課題”と“学校で習う国語や数学や理科や社会などの単元”も自然に接続され、中高生でも“ホンモノの課題”の当事者として学際的な探究の入口に立てる学び」が実現できるようになります。
私たちは、前者の変化を 「学びの自律化・個別最適化」 、後者の変化を 「学びの探究化・STEAM化」 と呼んで、これらを経済産業省「未来の教室」プロジェクトの基本コンセプトの2本柱に据えました。
「それは文部科学省の学習指導要領との整合性はあるのか?」 とよく問われます。
当然、大アリです。 むしろ私たちの狙いは、文部科学省と中央教育審議会が2017年改訂学習指導要領(2020年度から実施)の中に埋め込んだ 「主体的・対話的で深い学びへの転換」という理念を「絵に描いた餅」にせず「本気で実現する」こと でした。
私は2017年改訂学習指導要領の発表当時、その理念の奥行きの深さに驚くとともに「果たして、これをいまの学校でどう実現するつもりだろうか」と感じ、その理念に対する政府内の共鳴者として徹底的に共闘しようと決めました。
教育は、人の幸せ・経済・社会のすべてを左右する「究極の未来投資」ですから当然です。
私たちが優先したのは、まずは学校に1人1台端末前提のICT環境を一気に整備し、 教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進める ことでした。
(第2回へ続く)