こどもとIT
小中高生13チームのロボットが国際大会に進出!――国際ロボット競技会 WRO Japan 2017レポート
2017年10月25日 07:00
2017年9月17日、東京都江東区のBumB東京スポーツ文化館で「WRO Japan 2017」(以下、WRO2017)の決勝大会が開催された。WRO2017は、世界の小中高生によるロボット競技会で、今回で14回目となる歴史のある競技会である。この決勝大会には、全国37の予選会を勝ち上がってきた121チームが参加し、レベルの高い競技が行われた。
レギュラーカテゴリーとオープンカテゴリーの2カテゴリーで開催
WRO2017は、レギュラーカテゴリーとオープンカテゴリーの2つのカテゴリーに分かれて競技が行われる。
レギュラーカテゴリーは、設定されたコースの課題をクリアする自律型ロボットを組み立て、そのクリアタイムや達成度を競う競技であり、サプライズルールと呼ばれる一部ルールの変更が当日の朝に発表されることがユニークだ。難易度によって、経験者向けのエキスパート競技と初心者向けのミドル競技に分けられており、エキスパート競技は、小学生、中学生、高校生のそれぞれについて課題やコースが異なり、ミドル競技は全て同じコースと課題となる。また、エキスパート競技では、プレゼンシートの掲示と審査員によるプレゼン審査もあわせて行われる。レギュラーカテゴリーは、「レゴ マインドストームEV3」を使ってロボットを製作することになっており、各チームともハードウェアについては同一条件で競うことも特徴だ。
小学生部門の課題は、「大切な動物たちを守れ!」というもので、逃げ出した動物をそれぞれの動物がもといたエリアに戻すというのがミッションだ。また、中学生部門の課題は、「Carbon Neutrality」であり、ソーラーパネルの設置と樹木の植栽がミッションである。高校生部門の課題は、「Renewable and Clean Energy」であり、3台の風力発電機を建設することがミッションだ。
オープンカテゴリーは、設定されたテーマに基づいてロボットを作り、当日展示と発表を行うものだ。プレゼンビデオとレポートによって事前審査が行われ、決勝大会には選抜された全14チームが参加した。決勝大会では、それぞれのチームのブースを設営し、審査員に対してプレゼンを行い、評価が付けられる。2017年のオープンカテゴリーのテーマは「Robots for Sustainability」であり、日本語に訳すと「持続可能性のためのロボットを作成せよ」となる。こちらは、「レゴ マインドストームEV3」以外のパーツを使用してもよい。オープンカテゴリーは、アイデア勝負という要素も大きく、バラエティに富んだロボットが展示されていた。
本稿では、オープンカテゴリーの様子を中心にレポートする。
オープンカテゴリーでは完成度の高いロボットが多数展示
オープンカテゴリーの展示スペースには、今回の「Robots for Sustainability」というテーマに合致したさまざまなロボットが展示されていた。その中から主なものを紹介する。
高校生部門「Chig RPMs」チームの「SOLAR COOKER」
高校生部門の「Chig RPMs」は、太陽の光を追いかけて、太陽光で調理を行う「SOLAR COOKER」を展示。太陽の動きにあわせて、太陽光を集めるパラボラ鏡が動く仕組みだ。
高校生部門「Ceres」チームの「潔」「截」「諧」
「Ceres」は、海岸に大量に流れ着き、悪臭などの原因となっているアオサを肥料に変えるための3台のロボット「潔」「截」「諧」の展示やデモを行っていた。
高校生部門「Enter」チームの「スサノオ」
「Enter」は、間伐作業を行うロボット「スサノオ」をデモしていた。スサノオは間伐材の判断を行う親機と、実際に木を切る子機から構成されており、画像認識を行うなど技術的なレベルが高かった。
中学生部門「crafts men」チームの、土壌に含まれている瓦礫や有害物質を取り除く装置
中学生部門の「crafts men」は、土壌に含まれている瓦礫や有害物質を取り除く装置の展示とデモを行っていた。
中学生部門「Otemon Quest」チームの「しゅわっと君」「はなちゃん」
「Otemon Quest」は、音声を認識して手話に変換する「しゅわっと君」と文字入力装置「はなちゃん」のデモを行い、注目を集めていた。タブレットで音声を認識し、カラーコードに変換。それをEV3のカラーセンサーで読み取り、ロボットへと伝える。プレゼンも手話を交えて行うなど、全体的なレベルの高いデモであった。
小学生部門「TOKYO-gg」チームの守護神ロボット
小学生部門の「TOKYO-gg」は、畑を荒らす害獣を追い払う守護神ロボットの展示やデモを行っていた。“守護神”はダイナミックに走り、腕が回転し、光で威嚇する。
小学生部門「FrozenBlizzad」チームの海水面上昇を防ぐロボット
「FrozenBlizzad」は、地球温暖化で解けた氷を再び元に戻すことで、海水面上昇を防ぐロボットの展示とデモを行っていた。この作業は、3台のロボットが分担して行う仕組みであり、こちらも小学生とは思えない立派なプレゼンを行っていた。
コスタリカでのWRO国際大会へは10チームが進出
展示や競技、審査がすべて終わったのちに、表彰式が行われた。
オープンカテゴリーの最優秀賞は、音声を認識して手話に変換する「しゅわっと君」と文字入力装置「はなちゃん」の「Otemon Quest」チームが選ばれた。
最後に、表彰を受けたチームの中から、2017年11月10日にコスタリカで開催されるWRO国際大会進出チームが発表された。
オープンカテゴリーからは、最優秀賞の「Otemon Quest」に加え「福岡県立香椎工業高等学校 作品製作部」「Frozen Blizzard」の3チーム、レギュラーカテゴリーからは「ウルトラS」「Space hero」「サンダーバード1号」「ロボターズ3」「Color Creators」「IZUMI・MIYAZAKI」「KKT+α」「YTHS E.boys」「Team Axis」「しおこしょう」の10チームが選ばれた。
レギュラーカテゴリーのエキスパート競技やミドル競技の、各部⾨の表彰チームは以下の通り。
レギュラーカテゴリー(エキスパート競技)
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 9 | KKT+α | 山梨県立甲府工業高等学校 |
準優勝 | 23 | YTHS E.boys | 愛媛県立八幡浜工業高等学校 |
3位 | 12 | Team Axis | 富山高等専門学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 47 | ロボターズ3 | 新発田市立猿橋中学校 |
準優勝 | 52 | Color Creators | 洛星中学・立命館中学 |
3位 | 57 | IZUMI・MIYAZAKI | 都城泉ヶ丘高等学校附属中学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 69 | ウルトラS | 静岡大学附属浜松小学校 |
準優勝 | 70 | Space hero | 立命館小学校 |
3位 | 67 | サンダーバード1号 | 氷見市立十二町小学校・富山市立鵜坂小学校・砺波市砺波南部小学校 |
レギュラーカテゴリー(エキスパート競技)プレゼン審査
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
最優秀賞 | 5 | Dengiken δ | 芝浦工業大学附属高等学校 |
優秀賞 | 13 | HAYABUSA | 福井県立高志高等学校・福井県立武生東高等学校 |
プレゼン賞 | 23 | YTHS E.boys | 愛媛県立八幡浜工業高等学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
最優秀賞 | 44 | Dengiken T O | 芝浦工業大学附属中学校 |
優秀賞 | 46 | TONAN.JP | 筑波大学附属中学校 |
プレゼン賞 | 57 | IZUMI・MIYAZAKI | 都城泉ヶ丘高等学校附属中学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
最優秀賞 | 72 | かみかむかめかむかもRD-β | 尼崎市立杭瀬小学校・神戸市立御影北小学校・神戸市立渦が森小学校 |
優秀賞 | 69 | ウルトラS | 静岡大学附属浜松小学校 |
プレゼン賞 | 67 | サンダーバード1号 | 氷見市立十二町小学校・富山市立鵜坂小学校・砺波市砺波南部小学校 |
レギュラーカテゴリー(エキスパート競技)審査員特別賞
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
小学生部門 | 75 | Step By Step | 石垣市立平真小学校 |
中学生部門 | 47 | ロボターズ3 | 新発田市立猿橋中学校 |
高校生部門 | 10 | しおこしょう | 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 |
レギュラーカテゴリー(ミドル競技)
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 103 | Blue Mountain Bridge | 茨城県立土浦工業高等学校 |
準優勝 | 108 | TOGAKUメカトロ | 東海学園高等学校 |
3位 | 109 | Team Happy Futures | 幸福の科学学園関西高等学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 126 | つばた | 津幡町立津幡中学校 |
準優勝 | 131 | パイレーツ | 豊中市立第八中学校・箕面市立第六中学校 |
3位 | 125 | BNR-34 | 松本秀峰中等教育学校 |
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
優勝 | 161 | アミークスR2.S | 沖縄アミークスインターナショナル 小学校 |
準優勝 | 該当なし | - | - |
3位 | 該当なし | - | - |
オープンカテゴリ―
表彰 | NO | チーム名 | 学校名 |
最優秀賞 | 212 | Otemon Quest | 追手門学院大手前中学校 |
優秀賞 | 209 | 福岡県立香椎工業高等学校作品製作部 | 福岡県立香椎工業高等学校 |
優秀賞 | 222 | FrozenBlizzard | 世田谷区立中丸小学校・横浜国立大学教育学部附属横浜小学校 |
WROが目指すのは「世界を執れる、世界を変える人材」の育成
メディア向けに行われた説明会では、WRO Japan実行委員長の渡辺登氏がWROの概要や歴史についての説明を行った。
渡辺氏はまず、「ロボットや人工知能の進化によって、人間の仕事が機械にとって代わられるようになるという主張を聞くようになった。20世紀と21世紀ではロボットを作るということの意味も変わってきた。20世紀では、ロボットを作るというのは、機械を組み立てそれを制御するということであったが、21世紀では、ロボットを作ることというのは、ITや人工知能と同義になった」とロボットの発展を語った。
WROは、青少年の創造性と問題解決力を図る目的で、シンガポール国立サイエンスセンターの発案により2004年から開催された。現在は50以上の国や地域から、25,000チームが参加するほどの規模に成長している。
WROでは、まず国内公認の予選会が開催され、そこで選抜されたチームがWRO Japan決勝大会に進み、さらにその上位チームがWRO国際大会へと進む。日本の選抜チームは国際大会でも優秀な成績を残しており、2014年にロシア・ソチで開催された国際大会では、オープンカテゴリーの中学生部門で、奈良教育大学付属チームが見事優勝を果たしたという。
続いて、WRO Japan in EHIME実行委員会の佐伯淳氏が「運営・指導面からみたWROの意義」と題した講演を行った。
日本ではさまざまなロボット大会が開催されており、その年間開催数は100を超えるが、佐伯氏によると、それらのロボット大会にはちょっと問題があるという。その問題とは、「お金がかかる」「再利用が困難」「競技のための環境を整えすぎ」「前提となる知識のハードル」といったものである。
そうした問題を全てクリアしたロボット競技会がWROだと佐伯氏は言う。世界中で共通で手に入る「レゴ マインドストーム」を使うため、お金だけで解決することができず、選手の知力、体力、発想力などを総動員して取り組まないと勝つことはできない。また、WROでは競技中、選手と指導者が隔離されることも特徴だ。当日朝に行われるルールの追加・変更の「サプライズルール」には、選手だけで対応を考える必要があるため、教育効果が非常に高いという。また、選手のために用意された環境は最低限であり、様々な環境に対応する必要がある。「WROが目指す人材像は、世界を執れる人材であり、世界を変える人材だ」と佐伯氏は語った。