第6回 片いっぽうのスキー手袋

 宿へと続く林間コースにさしかかり、レンズを交換しようとリュックの中を探ると、入れていたはずのスキー手袋が片方見当たらない。ゲレンデで落としてきたようだ。実は昨年も同じゲレンデで手袋をなくしており、つい先日新調したばかりだった。安いものにしておいてよかったと安心するも、2年連続の同じ失敗は我ながら情けない。

 その日私は、子どものスキー撮影のために信州の高原に来ていた。スキー用の分厚い手袋はカメラを持つにも操作するにも不自由で、手には滑り止めゴムの付いた作業手袋をはめていた。近所のホームセンターで買ったオシャレのかけらもないその手袋は、防寒仕様でもなければ防水加工が施されているわけでもなかったが、程よい薄さが使いやすい。上に指なし手袋を重ねれば、寒さがこたえることもなかった。とはいえ、降雪の中じっとしていればやはり濡れるので、リフトに乗る時だけはスキー手袋を使用した。きっとその着脱時に落としたのだ。雪面に落としてもあまり音がしないから、気がつかなかったのだろう。

 手袋を替えたりゴーグルを着け外ししたり、ゲレンデでは何かと身の回り品に煩わされた。曇るファインダーを拭い、カメラに降り積もる雪をタオルで払い落とし、滑走しながらシャッターボタンを押す。滑ることも撮ることも制限付きで慌ただしくも野暮ったい撮影だが、それでも楽しいと思えるのは被写体のおかげ。雪が降っていても青空でも、順光でも逆光でも、すべてが絵になる風景。子どもの表情には力があるし、遊びながら撮るのも、また楽しい。

 林間コースに少し遅れてやってきた子を見送ってから、私はしばらくその場に留まり、杉の森を見渡した。上の方で乾いた雪が音もなく宙を舞い、薄日にきらめいている。ほどなく、一本の木から粉雪がさらさらとこぼれ始めた。もうすぐだ。一眼レフの録画ボタンを押して待つこと数秒。重みに耐えかねた枝から雪がどどどと音を立てて崩れ落ち、あたりは真っ白になった。何度見ても、気持ちがいい。

 手袋もこのくらい派手に落ちてくれたら気がつくのだけれど。そうだ、来年は鈴でも付けてこよう。

(2013/2/15)

1976年生まれ。カメラ誌出版社を経てフリー。カメラ雑誌や書籍での撮影・執筆を中心に、保育雑誌での撮影、その他依頼撮影などに従事。カメラはデジタル一眼レフと各種フィルムカメラを愛用し、フィルムカメラでは特にパノラマカメラHORIZONや中判カメラHASSELBLADがお気に入り。撮影テーマは、郊外、自然・アウトドア、子どもなど。 ブログ:http://bashinote.blog.fc2.com