【最終回】旅と写真 清水さや香さん
カメラが自然と入り込んでいる暮らし。カメラを持ち歩く楽しみ。日々キラキラしていることを切り取る喜び。カメラのある生活を楽しんでいる女子に密着します。第10回目は食品メーカーで働く清水さや香さん。
美しいポストカードのような写真を撮る人ーーこれが清水さんの第一印象だった。しかし、それだけではない。生活感のあふれる「街」を、大胆にかつそっと切り取る人でもある。外からやってきた者の客観的な目線を持ち、親しみやすすぎず、よそよそしすぎず、適度な距離感をもって撮影しているように感じられる。彼女がどんな思いで写真を撮っているのか気になり、直接お会いしてきた。
コーネル・キャパの写真が原点
清水さんが写真の存在を意識したのは、小学校時代に遡る。両親が連れて行ってくれたコーネル・キャパの写真展で「写真ってステキな表現方法だな」と感じた。それ以来、両親のカメラを借りて写真を撮り始める。「思いつくままに自然や風景ばかり撮影していました。小学生という年齢に見合わない、子どもらしくない写真ばかりでした。当時人物を撮った記憶はありません」と過去を思い出して笑う。
中学生になってからキヤノン製のカメラを手に入れる。どの機種だったかは記憶にない。それで撮影するのはやはり風景だった。その習慣は現在の清水さんにも通じているようだ。高校時代は空前の「写ルンですブーム」で清水さんもそれに乗った。「おバカっぽい写真をみんなで撮り合っていました」と話す。デジカメを買ったのは社会人になってからのこと。そのときはまだ気が向いたときに、写真を楽しむ程度だった。
デジタル一眼レフの登場を待っていた
2008年頃にトイカメラブームがやってくる。個性的な写真が撮れる、味わい深い1枚になるなどの理由で、おしゃれな雑貨屋などで数多く売られていた。そのブームより一足早く、トイカメラに魅せられていた清水さん。愛用していたのはホルガやシャオ、ジョイカムヒッパレーEXなど。撮ってすぐに見られる楽しさを感じながら、人物や可愛らしいアイテムを積極的に撮っていた。
デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-7」を購入したのは2009年頃。「私はひとつの被写体を納得がいくまで何枚も撮るので、一眼レフを購入するなら絶対にデジタルがいいと思っていたんです」と清水さん。その頃は普通のデジカメに満足できなくなっていた。リコーのGR DIGITAL IIに魅せられて、カメラ熱が高まっていたことも、デジタル一眼レフ購入を後押しした。フィルムを気にすることなく、上質な写真を心ゆくまで撮りたい彼女にとって、デジタル一眼レフカメラの登場は写真との向き合い方を大きく変えた。
写真が主役のひとり旅を愛する
清水さんはひとり旅に出ることが多い。行き先はヨーロッパ諸国が多く、生活感あふれる街を撮り歩く。一緒に行く人がいると気を使いあってしまい、写真撮影に打ち込めなくなってしまう。ひとりだと気兼ねなく何時間でも撮影に没頭できるし、気分によって進路を変えてもいいし、突然気になった場所へふらりと足を運ぶこともできる。いつの間にか清水さんの旅の中心には、常に写真が位置するようになっていた。
海外のカフェで写真を撮るのも好きだ。「カフェでぼーっとするのが好きなんです。2時間くらいぼんやりして撮影することもあります」と清水さん。一般的な観光名所にはあまり興味がない。それよりもその街に暮らす人々を活かした1枚を撮ることに力を注ぐ。小さくて歴史を感じる街が大好きだ。風景を撮りながら人もさりげなく写真に写し込む。「今後必要なのは語学力と勇気」と苦笑し、今年の目標は写真を撮らせてとお願いして、正面から堂々と街の人々を撮影することだと語る。
写真は誰に宛てるでもない手紙
清水さんは写真で何を伝えたいのか。「自分が向き合っている空間の空気感を伝えたいと思っています」と話す。実際の風景をそのまま伝えるよりも、自分の心で見たものを、そのときのニュアンスも含めて忠実に伝えたい。美しいと感じたものは美しく、歴史的だと感じたものはその重みを表現したい。どんなきもちでシャッターを切ったのか、撮った写真を見返すとすべて思い出せるという。
心と写真はリンクしていて、楽しいときには喜びあふれる写真が撮れ、悲しいときには悲しみのあふれた写真になる。それでもひとりよがりにはならない。ひとり旅をしながらも自分のためではなく、誰かのために撮っているという感覚があるのは、ブログの存在のおかげだ。「旅の記録を写真というかたちで伝えられる機会ができました。言葉で語るよりも写真は多くを伝えてくれますから」と清水さんは微笑む。
あなたにとって写真とは何ですか、と最後に聞いてみた。彼女にとって写真は「誰に宛てるでもない手紙のような存在」だという。自分の目を通して見たものを、自分を含めた不特定多数の人へ伝えるためのひとつの手段だ。まだ見ぬ街を撮るために、伝えるために、清水さんは再び旅に出る。具体的な誰かではない誰かへ「手紙」を書くために。