第3回 どんぐりと写真
あー。あの子ったら。
運転中の洗濯機がカラカラと音を発するのを聞いて、一時停止ボタンを押した。息子は外で遊ぶとよく、ポケットに小石を詰めて帰ってくる。まったく、ポケットを確認してから洗濯物に出してほしいな。小言を言いながら洗濯槽に手を突っ込むと、出てきたのは、どんぐり。犯人は自分だった。
どんぐりを見つけるとつい拾ってしまう。これで森のクラフトを作ろう、というわけではないので、家のいたるところに行き場を失ったどんぐりがたくさんある。小皿に載せて可愛く飾ろうなどと小粋なことを考えても、結局その小皿も無造作に放置するから、いずれは床にぶちまけて、イライラした挙句に捨ててしまう。それでもまた拾ってきてしまうのは、なぜだろう。
どんぐりとの巡り合わせが多いのは、どんぐりの降る季節に森へ行くことが多いから。ひところ、自宅の裏の森にカメラを持ってよく出かけた。カメラはたいていニコンF2だ。
秋から冬にかけて、森は日に日に明るくなる。晴れた日には梢の間から青空が覗く。セミも秋虫ももういない。静かなようだが、中は結構賑やかだ。風にざわめく枯葉の音、ぽとりぽとりとどんぐりの落ちる音。落ち葉を踏んだ時の音は、ケヤキやサクラなどの軟らかい音よりも、クヌギやコナラなどのぱりっと硬い音が好きだ。裏の森は落葉樹も多く、歩き甲斐のある森だった。
以前、こんなことがあった。カメラを両手に構えていた時、突然、バシャンとシャッターが下りた。なんと、どんぐりの仕業だった。お見事、シャッターボタンに命中したようだ。落下エネルギーとは、かくも力のあるものなのか。一コマ無駄にしたものの、なんだか嬉しいハプニング。フィルム3本ほど写真を撮り、空いたフィルム容器には、落ちたばかりのどんぐりを集めて持ち帰った。
ああ、わかった。どんぐりって拾い集めること自体が楽しいんだ。何に使うわけでもなく、少しずつ増えていくどんぐり。
写真を撮ることと、少しだけ似ている気がした。