VR Watch
「学生VR Meet Up 2018」レポート。VRに挑む学生が集結、展示や講演を紹介
2018年3月5日 08:00
2月18日、都内にあるDMM.comのオフィスにおいて、「学生VR Meet Up 2018」が開催されました。
VRおよびARに興味のある大学生および大学院生を対象としたイベントで、VRやAR分野で事業を展開している企業と、学生の交流を目的としています。主なイベント内容は、参加企業のスピーカーによる講演、学生や企業によるブース展示、懇親会など。本イベントに先立ってWebで開催されたUnityのプログラミングコンテストの表彰も行なわれました。
会場にはサークルやゼミでVRコンテンツやハードの開発に取り組んでいる学生と、企業のエンジニアや経営者、採用担当者などが来場し、意見交換も活発な様子でした。
ユニティ・テクノロジーズジャパン合同会社のプロダクト・エヴァンジェリスト、簗瀬洋平さんの講演では、「様々な分野に広がるUnityの活用」と題して、ゲームエンジンとしてだけでなく、映像制作の分野などでも用いられるようになったUnityの活用事例を紹介するとともに、VRコンテンツを開発する中で試みられている様々な取り組みと、その展望について話していました。
築瀬さんは映像制作の分野でUnityが活用されている事例のひとつとして、自社制作の映像作品「Adam」や「unity-chan! - The Phantom Knowledge」などを挙げ、特にAdamについては、「第9地区」などのSF映画作品で知られるニール・ブロムカンプ監督が、自ら名乗り出て制作に参加しているエピソードを披露しました。
「映像には色々な表現がありますが、ひとつの方向性としてはフォトリアルな方向性があります。これは身の回りのリアルそのものがゴールとしてあるので、目標を設定しやすい。マシンパワーが上がれば上がるほどに、より現実に近い表現が可能になります。それ以外の表現、例えばアニメであれば、トゥーンシェーダーなどを使う方法があります。ただ、アニメ的な表現は必ずしも立体的に正しくない場合があるので、そういうものをどういう風に表現するかという課題もあります」
映像系の取り組みについてはこのほか、Unityエヴァンジェリストの高橋啓治郎さんによる実験的な映像作品についても紹介しています。
Crawler swarm testfromKeijiro TakahashionVimeo.
「Unityはゲームを作るための開発環境ですが、現在はインタラクティブソフトウェアや映像を開発する環境としても活用されているのです。VRコンテンツ開発の観点からいえば、導入の敷居もとても低いので"ちょっとVRをやってみよう"、という時にも使いやすいと同時に、天井も非常に高いため、使いこなしていくと色々な表現ができるようになります」
VRコンテンツに関しては、そもそものVRの定義について言及。「Virtual」という単語の意味を"みかけや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であること"とし、重要なのは「新しく"バーチャル○○"が出てきたときに"○○"の部分とは何かを考えること」だと話しました。
「世の中のそれぞれのモノには本質的な部分があって、それを備えていることがバーチャルなものであると、日本バーチャルリアリティ学会のWebサイトに書いてあります。例えばFeliCaを使った決済は数字のやりとりにすぎず、形は一般に流通する貨幣とは違いますが、完全にお金の役割を果たすことができますよね。この場合はこれをバーチャルマネーと呼ぶことができます」
「バーチャルリアリティを考えるとき、そもそも我々にとってのリアリティとは何か、リアルとリアリティの違いとは何かを考える必要が出てくるわけです。そして、それを表現する手段はたくさんあります」
また築瀬さんはVRというプラットフォームについて「人間の持っている能力や文化を変える力がある」と話し、その一例として「Tilt Brush」を挙げ、VR空間を使った表現の新しさに言及しました。
「最近では、せきぐちあいみさんという方が、Tilt Brushで描いたキャラクターにボーンを入れてUnity上で動かすといったこともやっていて、これはもはやモデリングの新しい形といえるでしょう。アートとゲーム、インタラクティブソフトウェアが、近づいている一つの事例ですね。なので、いつかは彫刻を始めたい人が一番最初に触れるのがVRになっていくかもしれないわけです」
VRコンテンツとしてはこのほか、VR HMDとLeap Motionを使った脳神経手術シミュレータの事例や、災害時の避難経路シミュレーション用コンテンツ、Unityインターハイの優勝作品、学生が制作したターザンロープを再現するコンテンツ、半月型の設備と併せて無限回廊が体感できるコンテンツなどを紹介しており、最後に、学生によるインタラクティブ作品のコンテスト国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)への参加も勧めていました。
株式会社よむネコ代表取締役の新清士さんは、グローバルなVR市場の現状と今後について話しました。
新さんによれば、現在のVR市場の起こりは2010年頃から始まったといい、2012年に発表されたOculus RiftのDK1は、「革命的なハードだった」と振り返ります。
「スマートフォンに使われていたデバイスが、そのままVR HMDで使えたというのが大きなポイントです。すごく単純に言えば"スマートフォンで小型化が進んだハードをHMDとして実装し、モーショントラッキングと併せる"論理で作られたのが、Oculus Riftでした。それがわずか6年前のことです」
VR市場はまだまだ変化が激しいものの、VR HMDがハードウェアとして成熟していく方向性がある程度定まり、世界的に本格的なビジネスが立ち上がろうとしているのが現在のタイミングというのが新さんの見方です。
新さんはVR市場の規模と多様化の広がりを説明する文脈の中で、VR、MR、ARを総称したXR市場におけるスタートアップ企業への支援を行なっているベンチャーキャピタル「The Venture Reality Fund」が公開している「VR Industry Landscape」を提示し、XR市場に参入する企業が増加するに伴い、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアの配信プラットフォームやVRコンテンツのメーカーなどの層が厚くなっている点を指摘しました。
「参加している企業の領域を少し見るだけでも、ロケーションベース、スポーツ、ソーシャル、旅行、スポーツ、スポーツメディア、広告、エンタープライズ、ヘルスケア、教育など、非常に広い分野に渡って参入が進んでいますね。ひとつのハードウェアが現れたことによって、色んな産業に刺激を与えている。これがVRの大きな特徴です。実際に拡大を続けていることで、今後も拡張を続けるだろうと多くの人が考えているのです」
グローバルの市場予測としては、「確実に拡大する」との見方を示しており、コンシューマ市場においてはゲームが市場を牽引し、成長率は毎年42%増と予想しています。
日本市場については、PCゲーム市場が小さく、立ち上がりが遅いという点が指摘されているとのこと。個人でVRデバイスを所有し、コンテンツを購買するというよりは、レジャー施設などで体験するロケーション型のVRが市場を牽引しており、世界的なトレンドとは少し様相が異なる点を注視する必要があると話していました。
また、当初の市場予想になかった要素として、「バーチャルユーチューバー」の登場に言及。ある時点まで存在しなかった要素の登場によって、産業が予想外の方向に動く可能性を示し、関連する事象としては、今年に入ってからコミュニケーションアプリ「VRChat」のユーザーが急激に増加している事象を挙げました。
「バーチャルユーチューバーのキズナアイさんは、2016年の10月頃から活動を開始しています。どのような展開をすればヒットするのか見えないまま頑張っていたところ、2017年の12月くらいに突然ブレイクしましたよね。これは当初の予想にはなかったことだし、個人的にはいかにも日本的だなぁと思った事象です。というのも、バーチャルユーチューバーに人気が集中しているというのは、日本だけの現象なのです。ストアで海外のVRコンテンツを見ても、キャラクターを愛でるという主旨のソフトはほとんどないですしね」
「VRChatもそうですが、VR用のノウハウを2Dの配信に使うことによって、それまで存在しなかった市場が生まれました。今まで見えなかった市場が突然拓けるといったことは、これからも起きることが予想できます。そういった現象が起きるのが今のVR市場です」
「現在、VRコンテンツを作る中で最も大きな焦点になっていることの一つは"VR内のUIをどう設計するか"です。3次元空間を使ったインターフェイスでは、既存の家庭用ゲームタイトルで培ったノウハウがまったく通用しません。例えばボタンを押しても、身体的に"押した"という感覚がない。そういう感覚の中で、どうやって説得力のあるUIを作るかが、すごく重要なノウハウになってきています」
新さんが行なっているVR関連スタートアップのインキュベーション事業社「Tokyo VR Startups」は、2月より「Tokyo XR Startups」に名称を変更していますが、「XR」という呼称に変更したことについては、「VR、AR、MRといった呼び方を統合する、世界的な流れに対応したから」と理由を述べています
「AR、VR、MRのテクノロジーは、将来的に"X Reality"として同じ技術に統合されていくでしょう。(Oculus Riftの親会社である)Facebookのマーク・ザッカーバーグは2016年に行なった講演で、今後10年くらいでHMDを普通の眼鏡型のサイズに持っていけると話しています。VR、AR、MRのデバイスは、最終的に眼鏡型のデバイスに収斂されていきます。そういった大きなトレンドの中で、どのような技術が必要になるかというのも、投資を行なう上でポイントになっているのです」
現在のVRが抱えている課題については、デバイスの高価さ、HMDとは別に専用ハードが必要なこと、ケーブルが煩雑である点を挙げ、短期的にはスタンドアロンで動くHMDが主流になっていくとの予想を述べました。
これからVR事業に参加するメリットは、「新しい領域であることにつきる」と話します。
「これまでゲーム会社が持っていたノウハウが通用しない中での戦いになります。」
そのほか、参加していた学生サークル・ゼミのブースでは、VRコンテンツと体験に関わる取り組みについての展示を実施。スポンサーとして参加している企業のブースでも、事業として展開しているVR関連のコンテンツを中心に展示していました。