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「手をつないでVR体験」の新鮮さ。空間移動型VR「ABAL: DINOSAUR」を六本木で体験

VR空間を自分の足で自由に動き回ることは、VRにとっての「理想」のひとつでしょう。市販のVRシステムならせいぜい数メートル四方を動き回れるだけですが、さらに広い範囲を複数人が自由に動き回れるVRシステムは世界中で開発が進んでいます。そんな中、「日本発“空間移動型VR”」を標榜する「ABALシステム」を開発しているのが、株式会社ABALです。先日、VAIO株式会社がVRへの参入を発表した際にはパートナーとして公表され、話題となりました。

同社は、現在六本木ヒルズで開催中の「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION 2017」にて、ABALシステムを用いた最新VRアトラクション「ABAL: DINOSAUR」を一般公開しています。果たしてどんな内容なのでしょうか。

恐竜が闊歩するフィールドを自分の足で歩き回る!

「ABAL: DINOSAUR」は最大6人での同時プレイが可能なVRアトラクションです。6人で恐竜が闊歩する古代のフィールドを歩き回り、冒険していきます。

巨大な恐竜が迫力の映像で描かれる。重低音が効いたサウンドシステムで、足音や鳴き声もズンズン響く

ABALシステムの空間移動型VRのキモとなるのは、独自のポジショントラッキングシステム。VRヘッドセットとしてサムスンのGear VRを用いるほか、モーションキャプチャー用のカメラや、手足に装着するオリジナルのトラッキングターゲットを用います。ウェアラビリティにこだわったというだけあり、全てを装着するのにも3分もかからず、完全ワイヤレスのためケーブルに制約されることなく自由に動くことができます。

頭部にVRヘッドセット、手足にトラッキングターゲットを装着。足もトラッキングするのは意外に珍しい
トラッキング用のセンサーカメラはモーションキャプチャー用のものを使用しているとのこと

手に装着しているトラッキングターゲットは、いわゆるVRコントローラーのような「持つ」タイプではなく、手の甲に固定するタイプなので、手のひらはフリーになっています。この手で「何かを触る」という体験が、ABALシステムのユニークな点。VR内で手すりにつかまったり、蜘蛛の巣を払いのけたりと、触覚を意識した演出が点在します。そして何よりも、プレイヤー同士の身体接触を通じたコミュニケーションが促進されます。握手をしたり、ハイタッチしたり、四角い箱をリレーで手渡したりといったアクションを通じて、「VR内で一緒に冒険する仲間」という空気感が醸成されていくのは、非常にいい演出です。

「VR空間での人間同士のコミュニケーション」を目指すVRは数多くありますが、こうした直接の身体接触をウリにするものは、実は意外となかったように思います。特に空間を自由に動けるVRですと、プレイヤー同士の接触による事故を防ぐため、近づきすぎると警告を出されたりするものがありますが、ABALは全く逆の方針と言えます。実際、親子連れの来場者は子供が親にしがみつきながら移動したり、親子で手を繋ぎながら雄大な風景に感じ入ったりと、ならではの楽しみ方がされているとのこと。

そういった意味では、家族や恋人同士で連れ立って楽しむにはもってこいのVRアトラクションと言えそうです。公開期間は8/27までとなっているので、興味があればぜひ体験してみてください。「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION 2017」の入場料はかかりますが、「ABAL: DINOSAUR」の体験自体は無料となっています。

可能性無限大?のABALシステムのスペック

今回のアトラクションでは会議室程度のスペースに最大6人のプレイヤーという収容スペックでしたが、ABALシステムは原理的にはプレイ面積と同時プレイ人数をどんどん増やしていけるとのこと。資料によれば、プレイスペースの面積はセンサーを増やすことで「スタジアム規模まで」広げられるようです。

VRシステムの多くを内製しているところからも技術力の高さがうかがえます。ポジショントラッキング用のセンサーカメラは、VR用に開発されたものではなく、モーションキャプチャー用のものを流用。精度面の問題は感じられない上に、「トビラを通って部屋から部屋へ移動する」という技術難度の高い試みもクリアしています。

トラッキングターゲットはセンサーパーツの位置を差し替えることで空間内で識別できるようになっているなど、斬新な工夫がなされています。ヘッドセットに装着するオリジナルのパーツも、どんな方向からもトラッキングターゲットを捉えられるように形状に工夫が重ねられたとのこと。

特徴的な「ツノ」は試行錯誤の末にたどり着いた形状
トラッキング用の球を挿す位置を変えることで各トラッキングターゲットをユニークに識別できる

モバイルVRシステムを採用しているため、絶対的な映像品質ではハイエンドPCを用いたシステムには劣りますが、モバイル端末のグラフィック性能も近年急速に向上しています。「映像のクオリティは時間が解決する。それよりも大切なのは体験のクオリティ、体験を作ることが他との差になる。そのためにはウェアラビリティが重要」と代表取締役の尾小山吉哉氏は話します。確かに、重いバックパック型PCを背負ったり、VRコントローラーを握り続ける必要がないのは、それだけで快適です。

今後はVAIO株式会社とも協力しながらVRに取り組んでいくはずのABALの今後が気になりますが、当面はABALシステムをVRアトラクションとしてパッケージングし、企業向けに販売するB2B2Cモデルになるとのこと。ABALとVAIOの間でどういったシナジーが生まれるのかにも注目です。

桑野雄