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プロ写真家がノートPCを吟味し続けるワケ
筆者のようなプロ写真家はもちろん、アマチュア写真家にとってもベストなノートPCとは何か? それをずっと考えながら、長年にわたって様々なノートPCを吟味している。もちろんタブレットも検討の範疇には入るのだが、写真撮影におけるお供としての使い方を想定すると、やはりノートPCの方がストレスなく使えるという結論だ。
そもそも、写真家はノートPCをどのように活用するのか? ……多くの写真家は、撮影現場にノートPCを持って行く。現場で撮影した写真をその場でディスプレイで確認したり、メモリーカード内の写真を保存(バックアップ)したり、場合によっては軽い画像編集や画像変換などを行うためだ。そうなると、そうした作業に使いやすいことはもちろん、長距離の徒歩移動、あるいは山道などの険しい道を歩くことを考えると「軽く」「頑丈」であることが求められるのはわかるだろう。もちろん、CPUをはじめとした性能が高ければ高いほどよいのは当然だ。
そこで今回はモバイルノートPCとして充分以上に軽く、しかも頑丈だと評判の富士通のFMV「LIFEBOOK UH90/B1(以下、UH90/B1)」を試してみることにした。
筆者の場合、山へ、海へ、外国へと多岐にわたるロケがあるほか、出版社等でのスタジオ撮影やレンタルスタジオでの撮影を行うことも多々ある。それら、筆者の想定するあらゆるシーンで「UH90/B1」がどれだけ使えるか、試してみたい。
軽いレタッチや画像編集が必要になることも多い。もちろん、筆者は厳密な表現が要求される画像処理は自宅や筆者のスタジオにある高精度な外部ディスプレイとデスクトップPCを使う。が、ロケ先でノートPCで画像処理したり、出先のスタジオで外部ディスプレイにノートPCの外部出力をつなぎ、画像処理をすることもある。そうした利用にも耐えるかどうか、実際試してチェックしてみることにした。
「UH90/B1」の性能をチェックしてみよう
改めて、今回試用したのは「UH90/B1」。同シリーズの「UH75/B1」は13.3型ノートPCとしては世界最軽量の約761g※を実現したとして話題になった。「UH90/B1」は、「UH75/B1」からSSD容量、バッテリー容量などを倍増させた上位モデルだ。メモリーは約4GBと「UH75/B1」と同じだが、直販サイトのWEB MART限定カスタムメイドモデルであれば最大で約12GBまで選択できる。バッテリー容量が増えているので当然「UH75/B1」よりは重くなるのだが、「UH90/B1」を持ってみてそれでも軽さに驚いた。「UH75/B1」の約761gには驚愕したものだが、 「UH90/B1」も約913gという数字以上に軽く感じる。
※ピクトブラックのみ。2017年6月11日現在、富士通調べ。
製品名 | LIFEBOOK UH90/B1 |
---|---|
CPU | インテル®︎ Core™ i5-7200U プロセッサー 2.5GHz(最大3.1GHz) 2コア/4スレッド |
OS | Windows 10 Home 64ビット |
メモリ | DDR4 SDRAM 4GB |
グラフィックス機能 | Intel®︎ HD Graphics 620(CPU内蔵) |
ディスプレイ | LEDバックライト付高輝度・高色純度・広視野角 TFTカラーLCD(ノングレア液晶) |
画面サイズ | 13.3型ワイド |
画面解像度 | 1,920×1,080ドット |
ストレージ | SSD 約256GB |
インターフェース | USB 3.1(Gen1) Type-C×1、 USB 3.0 Type A×2、 HDMI出力端子×1、 LAN(1000BASE-T)×1、 SDメモリーカードスロット×1、 3.5mmステレオミニジャック×1 |
無線機能 | IEEE802.11a/b/g/n/ac対応無線LAN、 Bluetooth v4.1 |
バッテリ容量 | 内蔵リチウムイオン50Wh |
バッテリ駆動時間 | 約17時間 |
本体サイズ | 幅309mm×奥行き212.5mm×厚み15.5mm 突起部含まず |
質量 | 約913g |
スペック上のバッテリー駆動時間は約17時間と、とにかく長持ちするようだ。実際、新幹線での移動中や、宿で写真を見たり原稿を書いたりと延々使っていたが、この程度では一向に残容量が減らない気がする。後で詳しく述べるが、撮影現場の過酷な状況でも十分な時間電池駆動してくれていた。
CPUは第7世代「インテル® Core™ i5-7200U プロセッサー」だ。定格クロックは2.5GHzで、TurboBoost時の最大クロック数は3.1GHzと、モバイル向けながら性能に優れたCPUといえる。
ストレージ(記憶装置)は約256GBのSSDを搭載。持ち運びを考えた場合、SSDを採用しているのは何より嬉しい。HDDだと突然の衝撃に弱く、大事なデータを入れて持ち歩くのには細心の注意を必要とするが、SSDは半導体メモリなので振動や衝撃に強いからだ。容量はHDDに比べれば少ないので、撮影した写真データを永続的に保存しておくのには向かないが、マメにデータを外付けHDDやNASに移動しておきさえすれば、1回あたりのロケならこの容量でも十分だし、データのバックアップにもなるのでおすすめだ。また、SSDはHDDに比べて書き込みスピードが圧倒的に速いので、ロケ先でメモリーカードから「UH90/B1」へ写真をバックアップする際もストレスがない。OSやアプリなどの起動時間も速いのが最高である。
以上が「UH90/B1」の内部的なスペックだが、スペック表にはあらわれない特長もある。その一つが、その堅牢性溢れるボディだ。
写真家にとって、ロケ先でノートPCが壊れては仕事にならない。「UH90/B1」のボディはマグネシウム合金でできており、軽量さと頑丈さを両立している。どのくらい頑丈かというと、メーカー試験で全面に対する加圧試験は約200kgfをクリア、1点に対する加圧試験では約35kgfをクリア、約76cmの高さからの落下試験をクリア(※)。さらに、 本誌にてさらに目を背けたくなるような実験 も行なっている。
※LCD閉状態、本体起動時、底面から垂直落下での落下試験を実施。 無破損、無故障を保証するものではありません。 落下テストは信頼性データの収集のためであり、製品の耐落下衝撃性能をお約束するものではありません。
写真家の荷物というのはとかく、ひとつひとつが重い上に量も多い。デジタル一眼レフカメラ、各種レンズたくさん、三脚、ストロボ、モデリングランプ、etc…。当然、バッグの中も重量級の饗宴といった趣だが、そうした中に入れても安心なのは嬉しい(もちろん、キズ防止のためインナーケースには入れたいところだが)。
液晶ディスプレイはノングレアで、屋外で使用するに非常に適しているといえる。グレア液晶は一見鮮やかできれいに見えるが、映り込みが多いため、写真画像の調整やレタッチをするのに難儀する場合も多い。
液晶パネルはIPS方式を使用しているので視野角も広く、写真画像を扱うには適している液晶といえるだろう。
「UH90/B1」をロケに持って行ってみた
ちょうど、 筆者が「トラベル Watch」に持っている連載 のためのロケ予定があったので、カメラバッグに「UH90/B1」を入れて長野県の「池の平湿原」に行ってみた。
ノートPCとデジタルカメラを組み合わせる場合に便利なのが、ノートPCとカメラを無線接続し、様々な操作をノートPCから行なったり、撮影した写真をリアルタイムでノートPCに転送・確認できたりすることだ。スタジオで撮影するときはもちろん、屋外で撮影するときも便利だ。
筆者愛用のデジタル一眼レフカメラ「ニコン D5」の場合、カメラ本体にニコンから発売のワイヤレストランスミッター「WT-6」を装着し、ノートPC側には同じくニコンの専用ソフトウェア「Wireless Transmitter Utility」と「Camera Control Pro2」をインストールする※。最後にカメラとノートPCを無線でペアリングすればOKだ。「WT-6」と「UH90/B1」のWi-Fiは共にIEEE802.11acに対応しているので、超高速な通信が実現可能なはず。写真の転送速度にも期待がかかる。
※「WT-6」「Wireless Transmitter Utility」「Camera Control Pro2」は「UH90/B1」には付属しません。
というわけで、早速「ニコン D5」から「UH90/B1」へのワイヤレス転送を試してみたところ、JPEG最高画質(約20MB)を転送するのに約1.8秒、JPEGとRAWの同時転送(合わせて約50MB)でも6秒弱と高速で転送してくれた。以前の無線LAN規格では無線でのファイル転送に時間がかかり、現実的でないのでカメラとPCの間をUSBケーブルで有線接続したものだが、この速度であれば実用上問題ない。
カメラからノートPCへ写真をワイヤレス転送する場合、保存フォルダもノートPCの好きな場所に設定できる。例えば、撮影と同時にカメラのメモリーカードとノートPC、両方に同時保存できるので、旅先の宿で夜な夜なやっていたバックアップをとる必要がなくなり、早く寝られるという多大なメリットが実現できる。
もちろん、必要に応じてカメラとUSBで接続したり、メモリーカードから直接データを吸い出したりといったことも、ノートPCなら簡単だ。「UH90/B1」はSDメモリーカードスロットを装備しているので、SDカードを利用しているユーザーなら手軽に写真の取り込みができる。
現場で撮影データ確認作業も容易にできる。急ぎの仕事ならばその場で画像処理して送ってしまうことも可能
帰りのバスを待つ間、そして電車の中でも新幹線の中でも「UH90/B1」で写真の確認や整理、原稿執筆など、時間を有効活用できる
仕事先のスタジオで使ってみた
ロケから帰った翌日、某出版社で雑誌の仕事があったので、スタジオ撮影でも「UH90/B1」を使ってみた。
スタジオにはもちろん電源もあるが、バッテリーのベンチマーク代わりとばかりにバッテリー駆動で使ってみた。13時に撮影開始し、その時点での「UH90/B1」のバッテリー残量は90%。カメラと無線接続し、ノートPC側からカメラをコントロールしつつ、撮影したデータはRAW+JPEGで「UH90/B1」にリアルタイム転送していく。約5時間後の18時になってバッテリー残量は20%となっていた。常時ディスプレイをつけつつ無線フル稼働では、さすがに公称の駆動時間からは隔たるようだ。とはいえ、酷使してこれだけ持つのならば十分使える。それに、約50分でバッテリー容量の約50%が充電できる急速充電に対応しているので、ちょっとした時間でも充電できれば、すぐに再び活躍できるようになる。
外部ディスプレイ接続で作業性アップ
「UH90/B1」はHDMIの外部出力を搭載しているので、外部ディスプレイへの接続も簡単。大画面ディスプレイに繋げることで、デスクトップ並みの作業環境を実現できるのがメリットだ。
Windowsの設定で「表示画面を拡張する」にすればデュアルディスプレイ環境となり、「UH90/B1」の画面と合わせて2画面をフルに使える。例えば「Adobe Photoshop」(別売)であれば、ツールバーやレイヤーウィンドウなどを「UH90/B1」の液晶画面に並べ、大画面ディスプレイには写真をフルスクリーンで表示することで作業性が大幅アップする。高解像度の写真を編集するのにはそこそこのスペックが要求されるが、「UH90/B1」であれば何の問題もなく、大量のレタッチ作業が可能だった。
画像処理能力をLightroomで試してみた
通常、写真家の多くはデジタル写真を「RAW」で撮影している。RAWとは、JPEGなどの一般的な画像形式になる前の、写真の生データのこと。大抵はカメラ側で自動的にRAWからJPEGに変換(現像)されているので普通の人が意識することは少ないかもしれないが、手作業で現像することで写真をより思い通りのイメージに近づけることができるのだ。
RAW画像の現像作業というのは大量の写真を一括処理するケースが多いこともあり、マシンパワーを要求する作業なので、これも「UH90/B1」で試してみたい。
「UH90/B1」に写真現像ソフト「Adobe Photoshop Lightroom」(別売)をインストール。撮影したRAWデータ20枚を同期させ、一括で画像調整(すべての項目を少しずつ調整)したものをJPEG(画質:最高、画像のサイズ原寸)で別フォルダに書き出してみた。
結果は2分10秒で処理が終わった。1枚あたり6.5秒だ。出先での作業には十分すぎる処理速度だろう。ちなみにJPEGからJPEGにならば50秒で画像調整を一括でできた。
溜まった素材を活かして動画編集、いいね!も量産できそう?
ところで「UH90/B1」には動画編集ソフト「CyberLink PowerDirector 14 for FUJITSU」が同梱されている。このソフトは動画編集ソフトとしては定番中の定番で、簡単な操作で動画が編集できる(実は私も持っている)。
最近の一眼レフは動画が撮れるし、スマホで手軽に動画を撮影する人も多そうだが、大抵は撮りっぱなしになっているだろう。こうしたソフトを使って、複数の動画をつなぎ合わせてテロップを入れ、音楽を入れる程度でも十分楽しいし、サクッと作って動画サイトにアップし、多くの人に見てもらうのも良いだろう。今回はスマホに入っていた動画と写真を合わせて切り貼りして、音楽はフリー素材をダウンロードしてみた。
実際に編集した我が子たちの動画
BGM:フリーBGM・音楽素材MusMus
バランスの良さが力強いモバイルノートPC
カメラからの転送、保存、書き出しや読み込み、そして画像処理やRAW現像。どれも満足できる性能だった。何より、軽量さ、薄さ、そして強靱なボディは、得てして過酷な状況となってしまいがちな写真家の仕事にも力強く応えてくれる。
ストレスない作業を実現する「パフォーマンス」と、軽量・スリムゆえの「取り回しの良さ」、そして力強い安心感をくれる「堅牢性」。この3つの特長はいわばPCの「心・技・体」である。それらをバランスよく兼ね備えた「UH90/B1」は、写真家が求める性能を過不足なく体現していると言えるだろう。