“大人の趣味パソコン”としての色気を漂わせる、富士通の新しい一体型デスクトップPC、FMV「ESPRIMO FH90/A3」(以下FH90/A3)に、筆者はわりとメロメロ気味なのである。ブラックを基調にした直線的なフォルムの筐体に、狭額縁の液晶ディスプレイが組み合わされたシックな外観。まさに書斎に置いておきたくなる見栄えだ。
富士通さんからお借りしてしばらくオフィスに置いてあるのだが、「ああ……こんなに長く借りられるなら自宅で使うようにすれば良かった」とちょっと後悔しているところ。まあ、自宅には子供の絵本が散らかる寝室か、子供のおもちゃが散らかる部屋しかなく、大人用の書斎と言える場所はないのだけれど……。
正直に言えば、普段の仕事はいつも使っているノートPCでこなしているので、毎日のようにFH90/A3に触れることはできていない。けど、オフィスに出勤してその姿を目にするたびに、お、今日もかっこいいな、と思いながら席に着く。それくらいFH90/A3の存在感、たたずまいが、これまでのPCにない魅力あふれるものになっているのだ。
見た目とともに、その魅力を一層高めているのがオーディオ性能。フロントに透けて見える、ノスタルジーを感じさせるスピーカーのあしらいが、オーディオ機器としての骨太な性能を予感させる。スピーカーはPioneerとの共同開発ということで、やはり予感した通りの高い品質を実感できる。
というわけで、 前回のFH90/A3開発メンバーインタビューに引き続き、今回は、音楽や映像などマルチメディアコンテンツのFH90/A3における楽しみ方を探りつつ、ハイレゾサウンドを中心にその高音質をチェックしてみたい。
品名 | ESPRIMO FH90/A3 |
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CPU | インテル® Core™ i7-6700HQ プロセッサー (最大3.50GHz) |
OS | Windows 10 Home 64ビット版 |
ディスプレイ | 27型ワイドフルHD[1920×1080] スーパーファインVX IPS液晶 |
メモリ | 8GB/最大16GB |
ストレージ | HDD 約3TB |
光学ドライブ | BDXL™対応 Blu-ray Discドライブ(スーパーマルチドライブ機能対応) |
ネットワーク | LAN(1000BASE-T対応)、ワイヤレスLAN(IEEE 802.11a/b/g/n/ac準拠)、Bluetooth Ver.4.1準拠 |
テレビ | ハイビジョン・テレビチューナー×2(地上デジタル・BSデジタル・110度CSデジタル放送/ダブル録画、リモート視聴、AVCREC対応) |
インターフェース | ダイレクト・メモリースロット(SDXCカード対応)、USB3.1(Gen1)Type-C×1、USB3.0 Type-A×4、マイク・ラインイン兼用端子、ヘッドホン・ラインアウト兼用端子、HDMI入力端子、HD Webカメラ内蔵(有効画素数 約92万画素) |
サイズ(W×D×H)突起部含まず | 616×227×470mm(本体最小傾斜時) 616×227×468mm(本体最大傾斜時) |
主な付属品 | ワイヤレスマウス、ワイヤレスキーボード、ACアダプタ、miniB-CASカード、リモコン |
主な付属ソフトウェア | Office Home & Business Premium プラス Office 365 サービス、マカフィー® リブセーフ™ 3年版、 ATOK 2016 for Windows、Corel® PaintShop® Pro X8 for FUJITSU、Corel® Digital Studio for FUJITSU、CyberLink PowerDirector 14 for FUJITSU、Corel® WinDVD®、筆ぐるめ 23 など |
ハイレゾ音源を低音から高音まできめ細かく、忠実に再現するオーディオ性能
FH90/A3で最も注目すべき高いサウンド性能。そのひとつが、ヘッドホンアンプを内蔵したハイレゾ対応のオーディオ出力だ。その実力を体感するには、可能であればハイレゾ対応のヘッドホンを用意しておきたいところ。あとは肝心のハイレゾ音源そのものも必要だが、逆にいえば、それさえあればFH90/A3の実力を引き出して使いこなすことができるとも言える。
ハイレゾ音源は「 e-onkyo music」などのハイレゾ音源配信サイトで購入しよう。Windows 10は標準でハイレゾに対応しているので、楽曲再生にはWindows 10標準の「Windows Media Player」、もしくはプリインストールされている「Groove ミュージック」を使おう。どちらも“ハイレゾ”と定義される48kHz/24ビット以上のWAV/FLAC形式に対応し、ハイレゾ音源をしっかりハイレゾのまま再生することが可能だ。
で、実際にハイレゾ対応ヘッドホンで聞いてみたところ、音を鳴らした初っぱなから、うめき声が漏れてしまうほどだった。鮮明で、ノイジーな部分の一切ない透明感のある音の広がり。空気の揺らぎすら忠実に再現するかのような極低音から、突き抜けるような高音まで、「これぞハイレゾ」と言わんばかりの音の美しさを感じた。
具体的に例を挙げてみたい。1つは「響け!ユーフォニアム」オリジナルサウンドトラック「おもいでミュージック」の1曲目「はじまりの旋律」(FLAC 96kHz/24ビット)。少し切ないピアノの旋律から、流れるようなストリングスの盛り上がりが印象的な曲だが、FH90/A3で聞いて真っ先に注目したのが序盤のピアノの打鍵音だ。
FH90/A3ではボリュームをちょっと絞り気味にしても、ピアノの音と同時に鳴る低い打鍵音がはっきり聞こえる。しかも、単純に聞こえるというだけでなく、音の強さによって「ドッ」と聞こえることもあれば「トン」と軽く聞こえることもある。微妙な打鍵の強さの違いもきちんと聞き分けられるのだ。
ここは一般的なPCやスマートフォンで聞いていると気付けなかった部分で、打鍵音が聞こえたとしても強弱があるところまではなかなかわからない。ピアノのペダルを踏む音なのか「ゴトゴト」という音もFH90/A3ならわずかに聞こえ、演奏の生の臨場感が伝わってくる。これほどまでに生々しさが伝わってくるのは、余計なノイズが含まれておらず、それなりに高い電力でドライブできるPCだからなのかもしれない。
次に、3Dバイノーラル音源「3D Binaural Sessions at Metropolis Studios」のトラック5「Real Love」(FLAC 96kHz/24ビット)。人間の頭と耳を模してマイクを配置し、立体感のあるサウンドを再現する3Dバイノーラル音源は、ともすれば音像定位がぼやけてしまいがちだが、FH90/A3では目に見えるかのように明瞭だ。他の機器で聞いた時は曲の出だしからマイクがボーカルのほど近くにあり、部屋もこじんまりした広さかな、と想像していたのだが、FH90/A3で聞くと、最初はマイクがボーカルからある程度離れたところにあって、そこそこ広い部屋で録音しているのだろうと感じる。
どちらが正解かはわからないし、ここでそれを論じてもあまり意味はないと思うけれど、少なくとも臨場感をより味わいやすいのはFH90/A3で間違いない。高音質であるのは当然のこととして、FH90/A3では音の生っぽさ、みずみずしさが驚くほどきめ細やかに再現されているようだ。
一方、FH90/A3の「高音質」のもうひとつのポイントである内蔵スピーカー。こちらも、ヘッドホン出力と同様の生っぽさが(ヘッドホンほどではないにしろ)伝わってくる。4W+4Wのフルレンジツイーターだけとは思えない音場の豊かさ、元気の良い中高音域の伸びは、さまざまな音楽ジャンルをカバーしてくれる。打鍵音のような、スピーカーだとうっかり聞き逃しそうなさりげない音も、極低音を担当する10Wのサブウーファーがしっかり拾い上げている。スピーカーで聴くハイレゾも、面白い。
Blu-ray、ストリーミング、テレビは、サウンドエンハンスメントでさらに印象深く
ハイレゾ対応機器となると、どうしてもハイレゾ音源による音楽鑑賞ばかりに目が行きがちだけれど、FH90/A3はサウンド出力そのものが高品位のため、非圧縮音源か圧縮音源か、ソースがBlu-ray/DVDなどの光学ドライブか、あるいはテレビか、Netflix/Huluのようなネット配信コンテンツかにかかわらず、すべてにおいて音の品質レベルが引き上げられるのがミソだ。
例えばBlu-rayでは、音楽主体の映画ならしっとりした場面のBGMも、激しいパーカッションも、くっきりとした音の輪郭をもって耳に届いてくる。超絶技巧のドラムスが見どころのジャズ映画「セッション」では、主人公らが演奏する“聴かせる”場面はもちろん、ボリュームの絞られたひっそり流れるBGMまで、メリハリよくしっかり聞かせてくれた。
一方、迫力重視のアクション映画はどうか。冒頭からオフロードバイクによるインパクトのあるアクションが繰り広げられる「X-ミッション」では、音楽よりも効果音の聞こえ方がキモになってくる。こちらはFH90/A3のオーディオ出力の特性としてフラットさを追求していることもあってか、人の声の中音域をはじめ、全域にわたって丁寧に、きっちり鳴らし切っている。
けれど、その素直さゆえに、アクション映画の臨場感に求められる、ある意味正確さ度外視な、極端なダイナミックレンジまではカバーできていないようで、そのままでは物足りなく感じてしまう。そこで活用したいのが、好みの音質に変えるサウンドエンハンスメント機能「WAVES MaxxAudio」だ。
プリインストールされた音質調整用アプリ「WAVES MaxxAudio」では、最初から音楽向けの「MUSIC」と映画向けの「MOVIE」の2つのモードが用意されている。機能をオンにしていずれかのモードを選び、出力先となるデバイス(イヤフォンか、ヘッドホンか、内蔵スピーカーか)を選択するだけで、そのサウンドソースと出力先に適したよりメリハリのある音質に変えてくれる。
低音や高音のレベル、音の広がりなどを手動で調整することもでき、イコライザーで音質を変化させることも可能だ。WAVES MaxxAudioはFH90/A3のあらゆるアプリケーションのサウンド出力に有効だが、特に映画コンテンツでの効果が絶大で、音のディティールは維持しながらも、静かな場面は抑え、迫力の場面は爆発的に鳴らす。ソース自体がもつ広いダイナミックレンジを活かしきる瞬発力と重厚さで、1台のPCのヘッドホンやスピーカーで鳴らしているとは思えない、ホームシアターライクな空間を演出してくれる。
映像も美しく“魅せて”くれる、自動画質調整機能
音質とともにチェックしておきたいのが、狭額縁で没入感の高い液晶ディスプレイの映像だ。高輝度、高速応答を実現したという27型ワイドの大画面液晶を、PCでの映像表示はもちろん、内蔵チューナーによるテレビ視聴も行えるのがFH90/A3の特長。HDMI入力端子を搭載しており、ゲーム機などのための外部ディスプレイとしても使える。
液晶はそのままでも十分に見やすく、美しいグラフィックを表示してくれるが、Blu-ray/DVD再生ソフト「Corel® WinDVD®」や、テレビ視聴ソフトの「DigitalTVbox」など、特定のプリインストールアプリケーションで映像を視聴する際には、そのコンテンツにより適した映像に変えてくれる画質調整機能を使いたい。
「ステータスパネルスイッチ」から設定できるこの画質調整機能は、デフォルト設定の「オート」にしておくだけで、それら特定のアプリケーションでの映像再生を認識し、その映像部分のみ自動で最適な画質に調整してくれる。具体的には、明るさや色合いがコンテンツに合わせて微調整され、暗すぎる部分は自然に見える程度に明るく、明るすぎる部分はやや抑え気味になり、場面によってもっと鮮やかさが必要そうな部分はくっきりした色合いになったりもする。
Blu-rayの映画やテレビの視聴中にオン・オフを繰り返してみると、オンにした時はテレビ本来の見た目に近い少し赤みの増した色合いとなり、明るさ・暗さもシーンに応じて調整されているようだ。映像のコントラストが大きい映画では、そのコントラストを崩すことなく、明るさや色合いを変えて見やすさを向上させ、テレビ番組では、古ぼけた朱色のような部分がくっきりとした赤に変化し、映像が見事にリファインされたと感じる。
わずかな違いではあるけれど、このわずかな違いが映画やテレビ番組に対する印象を変えたりするもの。少なくとも筆者の場合は、長時間見続けることも多いこういった映画やテレビの試聴において、画質補正機能をオートに設定しない理由はないと思った次第。常に雰囲気良く視聴できるに越したことはない。
高音質なサウンドを、高画質な映像とセットで味わいたい
高音質を前面に打ち出しているFH90/A3は、ヘッドホンで聞いても、スピーカーで聞いても、確かにその通り、申し分のない音質を実現しているとわかるし、これまでのESPRIMOシリーズにない魅力を感じてもいる。ただ個人的には、音質だけでなく、映像美も同じように追求しているところが今回のFH90/A3のポイントだと思うのだ。
いくら音質が良くても、PCを使っている間、音楽だけを聞いていることは少なく、だいたいがPCの画面を見てなんらかの操作をしているはず。とりわけBlu-rayや動画配信サービスの映像コンテンツを視聴する時は、そこで満足のいく画質で映像を表現できていないと、音がいくら良くても面白さは半減してしまうといっても過言ではない。音質も映像も、そして外観デザインも、全体の品質をバランス良く高め、目も耳も幸せになるPCに仕上げられた、というのがFH90/A3の本当の姿なのではないだろうか。