来年後半にも放送開始される次期CS(通信衛星)デジタル放送の免許受付に、41社もの企業が申請し、通信と放送の融合に対する産業界の期待の大きさを改めて浮き彫りにした。申請された伝送容量は合計1,131スロット、電波中継器(トランスポンダー)23.5本分に当たり、規定数12本の2倍近くに達する。しかし、次期CSの設備使用料は高く、受信機もどれだけ普及するかは未知数。郵政省は12月に認定企業を決定するが、参入には明確なビジネスモデルが求められる。
「事前説明会には200社以上が参加していた。40社程度の申請は予想していたが、1社当たりの伝送容量がこれほど大きくなるとは思わなかった」―。郵政省の幹部は、2001年夏に打ち上げられる次期CSデジタル放送の人気の高さに戸惑いを隠さない。次期CSは、現行のBS(放送衛星)と同じ東経110度の軌道に静止し、その放送は今年12月から始まるBSデジタル放送と同じ受信機で視聴できるようになる。標準テレビ放送、データ放送、音声放送の3種の免許があり、標準テレビ放送の免許だけでも、BSに比べ大きな伝送容量を使い分ければ、データや音声の補完放送が可能になる。
●民放5社と組むソニー
大容量の映画やTVゲームソフトをダウンロードできるほか、インターネットと接続してホームショッピングやホームバンキングなど双方向サービスを提供できるのが特徴。しかも、既存のBS放送の視聴者を取り込んで事業化できる利点があり、放送業界では加入者規模をBSデジタル同様に「1,000日後に1,000世帯」と弾いている。
今回、設立準備中を含めて41社にのぼる免許申請企業は、大半が放送、電機、商社、流通、新聞、音楽・出版などによる異業種の連合体。その中核は、地上波放送の民放キー局5社と、ソニー(6758)など電機メーカー4社だ。民放キー局は次期CSをIT時代の有力メディアと位置づけ、それぞれ5社の事業会社を設立した。一方、電機メーカーは豊富なコンテンツをもつ民放キー局と組むことで、AV(音響・映像)機器の拡販を狙っており、ソニーは5社すべてに出資、松下電器産業(6752)は4社、東芝(6502)は2社、日立製作所(6501)と三菱電機(6503)も1社ずつに出資している。
●データ放送は競争率3倍超
申請された1,131スロットの伝送容量の内訳をみると、標準テレビ放送が964スロット、データ放送が156スロット、音声放送が12スロット。これに対し、周波数割当てに伴う参入枠はそれぞれ480、48、48であり、標準テレビ放送は約2倍、データ放送は3倍以上の競争率となる。参入枠内に留まったのは音声放送だけだった。申請は12スロットを1単位としているが、1社で48スロット(4単位)以上申請した企業は13社もあった。「大容量の要求が目立つ。トラポン1本の伝送容量は48スロットで、標準テレビ放送(参入枠480スロット)の場合、10本の規定数しかないが、各社とも1本以上の使用を求めてきた」と、郵政省の幹部は頭を抱える。
●高機能サービスを選定基準に
しかし、次期CS放送が思惑通りの利益を生むかどうかは分からない。東経110度CSを共同所有する宇宙通信とジェイサット(9442)の設備使用料は、12スロットで年間約3億円、48スロットとなると同10億円近くに達する。このほか、地上回線の使用料、加入者管理のコスト負担も大きい。充実したコンテンツと有用な双方向サービス、さらに受信機が安価でない限り、「1,000日1,000万世帯」も皮算用で終わる可能性もある。
現行のCSデジタル放送は、既に122社の委託放送事業者が338の番組を放送しているものの、大半は赤字経営。郵政省は今回、認定企業の選定について「現行CSは多チャンネル化が目的だったが、次期CSはサービスの高機能度を基準にする」(幹部)としている。“見るテレビ”から“使うテレビ”への参入リスクは決して小さくない。
■URL
・郵政省
http://www.mpt.go.jp/
・東経110度CSデジタル放送に係る委託放送業務の申請受付結果
http://www.mpt.go.jp/pressrelease/japanese/housou/001019j701.html
三上 純
10月24日
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