政府・自民党は、株価の低迷に配慮して株式譲渡益課税の源泉分離課税を当面存続させる方針を決めたが、この決定がマスメディアで報じられた17日以降、逆に株価は大きく下落し、18日にはついに平均株価が1万5,000円の大台を割り込んでしまった。ほかならぬ市場関係者から、政府の株価対策のセンスへの懸念が噴き出している。
事の発端は、自民党の野中広務幹事長が16日の講演で、アっと驚くような経済対策を近くまとめると発言。しかも「これまでの政策の大転換につながる」といった解説までついていたため、「大減税の表明では」「いや、むしろ当初予算で財政再建路線への転換を宣言するのでは」「でも増税が伴えば、株価が暴落しかねない」といった憶測が飛び交った。
ところが、17日に森喜朗首相が自民党の亀井静香政調会長、武藤嘉文税制調査会長と昼食しながら話し合ったのが、源泉分離の廃止先送りという「手垢にまみれた」(大手証券)対策だったことから、市場関係者は完全な拍子抜け。株価はまったく反応せず、むしろパレスチナ情勢の先行きに対する懸念や、ニューヨーク株安への警戒感から、売り先行の展開となってしまった。
この先送り方針を報じる新聞各紙も、野中発言で先行して報じた日経だけが取りあえず17日付朝刊1面トップで扱ったものの、夕刊では1面右下スミでの地味な扱い。夕刊で足並みをそろえた朝・毎・読の3大紙も、そろって小さな扱いで、解説や論評を加えたところは1紙もなかった。
●根っこは米企業業績の不安
パレスチナ情勢の緊迫化で、海外の株価、原油価格とも先行き不透明になってきたこの時期なら、源泉分離の廃止先送りを決めても、「また改革の先送り」といった批判を受けずに済む―。
こうした計算が、政府・自民党内で働いたのだとすれば、取りあえず成功したとみることも可能。ただ、大方の記者の反応は「ただあきれただけ」というのが実態のようで、論評する気も起きなかったのかも知れない。一方、16日からのドタバタ劇に付き合わされた市場関係者からも「これで株価対策になると考えるセンスが信じられない」といった失望感が広がっている。最近の株安について市場では、パレスチナ情勢といった経済外の要因よりも、米国の企業業績の先行き不安を指摘する声が多い。
原油高についても「一時的な高騰ではなく、むしろアジアでの需要回復などを背景にした構造的な問題」との見方が出始めており、日本経済にもボディーブローのように効いてくる恐れが強い。
さらに国内経済では、ゼネコンなどの企業経営の先行き不透明感や、相変わらずの株の持ち合い解消売りなど、懸念材料には事欠かない状態。パレスチナ情勢に便乗するかのような姑息な対策に、株価が反応してくれる状況でないことだけは確かだ。
■URL
・源泉分離の存続、2度おいしい兜町~クロス推奨で“ミニ特需”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/18/doc731.htm
・株譲渡益の源泉分離課税は当面存続へ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/17/doc724.htm
舩橋 桂馬
10月18日
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