義務化阻止へNTT(9432)と“呉越同舟”―。東京電力(9501)が、送配電線に沿って敷設している光ファイバー網を全面開放する方針を固めた。IT革命の推進には、多くの通信事業者が光加入者回線を利用できることが不可欠とする国内外の声を受け、自主開放に踏み切った形だ。しかし、それは、先にNTTが自社の光加入者回線について打ち出した“自由競争に基づく開放”と同じ論旨。郵政省やIT戦略会議(森首相の諮問機関)が開放義務の法制化を目論む中で、東電もNTTと同じく義務付け阻止に向けて先手を打ったといえる。地域通信で競合する両社の“呉越同舟”ぶりを、新電電や外資系通信事業者は警戒の眼で見ている。
●2004年までに10万キロ
「義務化?規制緩和にそぐわないよ」。電力10社で組織する電気事業連合会の太田宏次会長(中部電力社長)は、13日の定例会見で、中部電力(9502)も東電と同じく光加入者回線の全面開放に前向きな姿勢を示した。東電が先陣を切って10社横並びとなる電力業界では、残る8社も追随するのは明らか。そして、電力業界全体の意思となると、太田会長の発言通り“義務化反対”で統一される。
東電の場合、光ファイバー網の芯線貸しは従来、幹線網に限定し、しかも第1種通信事業者とCATV(ケーブルテレビ)会社に限って貸し出していた。今後は一般の需要家宅につながっている加入者回線、および大型工場や大規模ビルなど約6,000軒の大口需要家につながっている引き込み線も開放する。賃貸先も第2種通信事業者や放送事業者、大学・研究機関、自治体などに広げる構えだ。
東電の光ファイバー網は全長4万キロメートルを超え、NTTに次ぐ規模をもつ。2004年度末までには10万キロへ延長する計画であり、それが全面開放される意味は大きい。ただし、「料金はNTTの水準をみながら、相対取引で決める」(幹部)という。「NTTの主張とまったく同じ。これでNTTが勢いづけば、開放義務化は遅れてしまう・・・」と、新電電の幹部は不安を隠さない。
●NTTの「自主開放」は駆け引き
電力会社の送配電線は本来、「電気事業法」に基づく公益事業特権によって公有地や私有地に建設されている。それは電気事業を営むために与えられた特権であり、同じことは鉄道や道路、上下水道にもいえる。「それが通信事業のために使われ、しかも、電力会社の場合、東京通信ネットワーク(TTNet)など系列子会社が優先的に使っているのは不公平」という声は以前からあり、経団連も線路敷設権、すなわち電柱や管路に光ファイバーケーブルを張る権利の開放を提言しているが、義務化については電事連の反対で曖昧になってきた。
開放義務が法制化されれば、料金はコストベースによる認可料金となり、賃貸借をめぐる紛争には郵政省が介入できる。もっとも、独禁法の運用が厳格な欧米と違って日本では、義務化を特殊法人であるNTTにはともかく、民間企業の電力会社にまで課せられるかどうかは微妙だ。
その点はNTTも承知しており、郵政省の幹部は「NTTは義務化が避けられないと知りつつ、声高に自主開放を叫んでいる。グループ再々編を有利に進めるための駆け引き」と指摘する。実際、電気通信審議会(郵政相の諮問機関)では義務化に向けた検討が始まった。が、その矢先の東電の自主開放―。今回の“呉越同舟”が電通審の論議に何らかの影響を及ぼすのは避けられまい。
三上 純
10月16日
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