ダイエーオーエムシー(8258、DOMC)株を巡る一連のインサイダー取引疑惑は、問題の株取引をしたダイエー(8263)の鳥羽董社長と、中内功会長が、そろって辞任するという「刺し違え」(金融筋)の形で、一応の決着をみた。しかし、リクルートの高木邦夫専務を次期社長含みで顧問に迎え入れる今回のトップ人事に対する評価は微妙に分かれており、高木次期社長が中内氏の傀儡(かいらい)政権として働くなら「これ以上の支援は無理」(都市銀行幹部)と断言する関係者も少なくない。
●退任まで油断できない
今回の人事のポイントは3つ。ひとつ目は、中内会長が代表権を握ったまま取締役・最高顧問という役職に「退いた」ことだ。インサイダー疑惑と直接関係のない中内氏の会長退任は、住友銀行をはじめとした主要銀行4行の圧力の結果との見方が一般的。10日午後の緊急役員会直前まで「結論がどうなるか予断を許さない」と話していた関係者も多く、主要銀行と中内氏との間で、かなり厳しいせめぎ合いが展開された可能性が強い。
ふたつ目は、中内氏が本当の意味で「退いた」のかという点。来年5月 株主総会で、代表取締役からも退く意向を表明していることから、「これで本当に経営の第一線から身を引くのではないか」との見方が多い。しかし、今回の人事で代表権を手放さなかったことについては「すっきりしない」との感想も聞かれ、メインバンクは「本当に退任するまで油断できない」と警戒を解いていない。
そして最大のポイントは、来年の株主総会後に社長就任が予定されている高木氏の評価。高木氏の名前が取り沙汰され始めた当初、主要銀行の間では「中内氏が子飼いをリクルートから引っ張ってきた」との受け止め方が大勢だったが、それまで金融界では無名に等しかった高木氏の経歴が伝わるに連れ、好意的な見方も出始めている。
高木氏は1986年にダイエー取締役に就任、90年に常務に昇格。さらに92年にはリクルートの常務を兼任、94年にはダイエーの専務昇格を果たしている。しかし、なぜか99年7月に兼任していたダイエーの取締役を辞任。「中内会長の逆鱗に触れ、切られたのでは」との噂も流れた。このため銀行サイドでは「少なくとも、中内会長の秘蔵っ子といった評価は間違いだろう」との“希望的観測”も出始めた。
●中内氏の「傀儡」なら重大局面も
ただ、こうした期待が「ただの期待」に終わるのか、それとも現実になるのかは、ひとえに今後の高木氏と中内氏の行動にかかっている。中内氏とその一族が本当に来年5月で経営の第一線から退き、高木氏が取引先銀行の意向を反映させながらリストラを進めることができれば、少なくとも当面、壊滅的な事態は回避することができる。
が、逆に中内氏が院政を敷いたり、あるいは一族への政権交代に向けた布石を打つようだと、主要銀行との関係が決裂する恐れも否定できない。「高木氏と中内氏が一心同体と分かったら、高木氏が社長になれないような手を、株主総会までに打つ」と公言する関係者もいるという。
ダイエーは、衰えが見えるとはいえ、依然として日本で売り上げナンバー1の巨大小売企業。この経営問題は、景気回復のカギを握る消費動向にも大きな影響を与えることから、政府も重大な関心を持って見守っている。高木・次期社長が中内会長と距離を置いて、改革路線を取ることに失敗した場合、日本経済が再び厳しい局面に立たされることも予想される。
■URL
・鳥羽VS中内で社内抗争激化~波紋広がるダイエーのインサイダー疑惑
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/04/doc606.htm
舩橋 桂馬
10月11日
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