日本とシンガポールの間で進められていた自由貿易協定の締結を巡る官民合同協議が今月末で終了、これを受けて両国首脳が10月末に会談を行い、本交渉入りで合意する見通しとなった。これまでの協議で両国は、IT革命の進展などに対応する広範な協定の締結を目指すことで一致。このため月末に公表される報告書には、協定の対象分野として貿易関連手続きの電子化など既存の自由貿易協定には見られない項目が盛り込まれる。
自由貿易協定の検討は昨年秋にシンガポール側が提案。同年12月の小渕恵三首相(当時)とゴー・チョクトン首相の首脳会談での合意を受けて官民合同会合が設置され、今年3月から協定締結の是非や協定の対象範囲などの検討作業が行われていた。
政府筋によると、年内にスタートする本交渉では、これまで多くの自由貿易協定で対象となってきた関税や原産地規則だけでなく、サービス貿易の自由化や投資の自由化、競争政策の調和、基準・認証の相互承認なども対象に加える。
また、IT革命の進展に対応するため、輸出入許可などの審査手続きの完全インターネット化や電子商取引のルールの策定、2国間紛争の仲裁的処理制度の構築なども協定の対象項目に含む。さらには、金融分野で証券取引所の連結や監督面での協力を模索するほか、教育分野での学位の相互承認、放送分野での協力など幅広い協力関係の構築を目指すことになりそうだ。
●相乗効果が期待できるシンガポールとの地域経済統合
日本はこれまで、GATT(関税貿易一般協定)/WTO(世界貿易機関)を中心とする多角的自由貿易体制を重視、2国間や地域内の経済統合に反対の立場を取ってきた。
だが、1990年代のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)の難航などを背景に、この10年間で地域貿易協定を結ぶ動きが急増。WTOに登録された地域貿易協定は120にも達し、GDP(国内総生産)上位30カ国の中で未締結国・地域は、今や日本、中国、韓国、台湾、香港だけ。日本としても地域経済統合を対外政策の選択肢の1つとして模索すべき時代が到来している。
どの地域協定にも属さない唯一の先進国である日本に対しては、シンガポールのほかに韓国、メキシコ、チリ、カナダ、スイスが自由貿易協定の検討を打診しているが、日本がシンガポールを最初の相手国に選んだ理由は、(1)国内政治上の機微な品目(農水、皮革など)への関心が薄い(2)地理的に近接しており、民間企業が自由貿易協定のメリットを受けやすい(3)国内経済体制が近似している--ためだ。
さらには、東南アジアの金融センターとしての成長への期待や、IT(情報技術)分野でのネットワーク活用のメリットなども、自由貿易協定の相手国としてのシンガポールの魅力を一層高めている。
●日本・シンガポール自由貿易協定交渉の足取り
1999年 秋 | ・シンガポール、自由貿易協定の検討を打診 |
12月 | ・首脳会談、検討作業開始で合意 |
2000年 3月 | ・産官学会合(9月まで5回開催) |
9月 | ・報告書公表へ |
10月 | ・首脳会談、本交渉入りで合意へ |
■URL
・外務省HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
・シンガポール共和国の概要
http://www.mofa.go.jp/mofaj/world/kankei/a_sing.html
経済ジャーナリスト 河原雄三
9月20日
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