「ピア・ツー・ピア(P2P)」。
カリフォルニア州サンノゼで、このほど開かれた「Intel Developer Forum」の基調講演において、Intel社長のCraig Barrett氏が特に強調したのがこの言葉だった。同社はこのP2Pネットワーキングを普及させるため、IBM、HPなど18社とともに「Peer-to-Peer Working Group」を設立。同じような目的や興味を持つ個人や企業が自分たちを組織化してWebを作り上げていくという新しいネットワークモデルを提示している。IntelはこのP2Pという技術がWEBと同じように、インターネットに大きなインパクトを与えると考えているのだ。
●夢を実現した悪魔
しかし、実際にアメリカでP2Pの大旋風を巻き起こしているのはそのIntelではない。連邦地方裁判所に著作権法違反で訴えられている「悪魔」ことNapsterだ。これまで自分が購入したCDに対して、個人が楽しむ範囲においてはその作品をコピーして友人に譲っても著作権法違反で訴えられることは、まず無かった。しかしそれと同じことをグローバルなファイル交換を可能にしたインターネットのコミュニティーに持ち込んだら、どんなことになるだろう?
そんな“夢”を実現したのがこのNapsterだった。
インターネットにアクセスした全世界のユーザーのハードディスクをつなぎ、それぞれがMP3でハードディスク上に保持している音楽ファイルを共有する。こうして生まれた仮想空間上の音楽コミュニティーはサービス開始以降、わずか1年の間に2,000万人のユーザーを獲得。全米で50指に入るサイトとして若者たちの心をつかんでいく。
しかし、こんな実態を既得権者であるレコード産業が見逃すことはなかった。彼らにとってはこのコミニティーはまさに「悪魔」のような存在。著作権の網のかけづらいバーチャル空間で行われる無料コピーを防止するため、昨年12月、米レコード協会(RIAA)がNapsterの提訴に踏み切っている。その後、さらにRIAAは大手レーベルの楽曲掲載を禁止するよう仮処分を申請。この仮処分に対し今年7月26日、連邦地裁が著作権付きの楽曲を削除せよとNapsterに命令を下している。だがその翌日には控訴裁によってその命令を保留することも認められている。
●後を絶たない類似サイト
この裁判に関して結論が出るのはまだ先の話だ。だが、こうしたサービスをユーザーが強力に望んでいることだけは確かなようだ。たとえ、Napsterが活動停止に追いやられようと、「Gnutella」「Scour」という類似サイトも後を絶たず、根本的な解決にならないとの意見も多い。
こうしたユーザーの動向を考えたとき、未来の音楽配信の方向性として見えてくるのが「サブスクリプション方式」だと言われている。この方式は、一定の金額さえ支払えば無制限に楽曲をダウンロードして楽しめるサービス。そして、そこから得られる収益をアーティストやレコード会社に分配する。じつはNapsterもサブスクリプション方式を導入することでRIAAとの和解を模索しているとの情報もあった。和解案はRIAAからことごとく拒絶されたが、当のレコード業界もサブスクリプション方式を許容する方向へと傾きつつあるという見方が有力だ。
●デジタル著作権管理システムで
その試みがすでに、EMusic.comというサイトで始まった。このサイトでは保有する12万5,000曲のカタログ全てをサブスクリプションに適用している。1カ月に9ドル99セント~19ドル99セントという一定料金を支払えば、ダウンロードが無制限に行えるサービスを提供している。このサブスクリプション方式がテレビのCATVとするなら、一般のラジオやテレビのように無料のサービスも生まれつつある。米Visiosonic社が計画する「Interactive MP3」はNapsterと同じように楽曲のダウンロードはすべて無料。デジタル著作権管理システムのもとで配信を行い、スポンサー企業から得られる収益でアーティストたちにロイヤルティーを支払う。
現時点ではいずれのサービスも大手のレーベルのアーティストは含まれてはいない。だが、こうしたサービスが多くの消費者によって支持されるようになればメジャーレーベルの参入も近いとの読みが濃厚だ。アメリカでの状況は当然、日本の音楽配信にも大きな影響を与える。
現在、こうした音楽配信に対して明確な姿勢を見せていない大手レーベル、東芝EMI、ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック・ジャパンなどはいずれも外資系。新たな動きがアメリカのメジャーレーベルに出てくるとき、自らのスタンスを明らかにしていない日本の外資系レコード会社の大きな胎動が始まることになる。「悪魔」NapsterがもたらしたP2P革命が日本の音楽配信事情を大きく変える日が近づいているのだ。
フリーライター 上岡 裕
9月1日
・米主要大学の34%がNapsterを禁止――倫理基準の策定が急務(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0831 /gartner.htm
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