森政権が衆院を解散した6月2日、連立与党は今年度の当初予算に盛り込まれた5000億円の公共事業予備費の分野別の配分額を決めた。が、予備費の配分は例年、秋口を目処に行われる。年度入りして間もない配分決定が、「選挙対策」だったことは疑う余地がない。はたして総選挙では、公共事業の大盤振る舞い公約が有権者から猛反発を受け、”惨敗”に等しい結末を招いたことは今更言うまでもない。
「まだ正式に決定したわけではないので、IT(情報技術)分野を中心に見直したい」
総選挙の投開票が行われた6月25日の深夜、森喜朗首相はラジオ番組での筆者のインタビューにこう答えた。「選挙戦であれだけIT、ITと喧伝したのだから、予備費の配分を考え直してはどうか」との質問に、沖縄サミット後にも見直す方針を表明したのである。
が、7月25日に閣議決定された公共事業予備費の配分※は、予想通り。6月2日に決めた当初案と比べると、森政権が掲げる「日本新生プラン」の目玉であるITへの重点配分を巧みに演出した”粉飾”の実態が透けて見える。
IT関連事業(「情報通信基盤の整備」)は数字を見る限り、当初案の100億円から342億円へと大幅にアップ。総選挙で批判の強かった整備新幹線など従来型の公共事業を削りIT分野に手厚い配分を行った、と政府・与党は強調する。
しかし内実は、下水道への光ファイバーの敷設事業を当初案の「地域生活の質の向上」から「情報通信基盤の整備」に計上し直しただけ。こんな粉飾を施しても予備費全体に占めるITの比率はわずか7%弱にとどまる。
「子供からお年寄りまでがその恩恵を享受できるような『日本型IT社会』実現のため、私がリーダーシップを発揮して参ります」
28日に召集された臨時国会冒頭の所信表明演説で、首相は「日本型IT社会」の実現に向けて、「IT国家戦略」の策定や規制緩和に取り組む方針を表明。さらに、2001年度予算の中に「日本新生枠」を創設し、関連予算の拡充を図る方針も打ち出した。
しかし、総選挙で叩かれてもなお、予備費の大胆な見直しを果たせない森政権に、少なくとも現時点では期待を抱くことは難しい。首相は所信表明演説の中で「IT革命への対応は、変革への果敢な挑戦とそのスピードが大切」とも述べているが、はたして本人にその自覚はあるのだろうか。
<公共事業予備費費の配分>
内訳 |
当初案
|
閣議決定
|
有珠山等の災害復旧・防災対策 |
未定
|
696
|
国民生活の改善に直結する分野 |
2450
|
2070
|
・地域生活の質の向上 |
700
|
394
|
・都市機能の向上 |
400
|
396
|
・環境対策 |
200
|
443
|
・公共空間等のバリアフリー化 |
800
|
291
|
・社会保障・教育基盤の充実 |
350
|
546
|
生活構造改革・経済活性化に資する分野 |
2300
|
2033
|
・基幹的交通網の整備 |
1700
|
1266
|
・情報通信基盤の整備 |
100
|
342
|
・食糧自給率向上のための基盤整備 |
500
|
425
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三宅島・神津島・新島対策 |
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200
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・森首相の所信表明演説
http://www.kantei.go.jp/jp/souri/2000/0728syosin.html
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