2000年のIPO企業数は203社、公募調達金額は9,078億円と高水準となった。IPO企業の初値公募価格対比の騰落率は18%となったものの、2000年12月29日現在の騰落率は▲21%となった。また、初値が公募価格を下回った企業は55社と全体の約27%を占め、2000年12月29日終値では150社が公募価格割れとなった。
2000年のIPO市場の特徴は、ITセクターの IPO企業の数、および資金調達額が大きかった点である。IT銘柄は77社、資金調達額で5,616億円に達した。IT銘柄の公募価格対比の騰落率は2000年1月22日現在で▲31%と市場全体をアンダーパフォームした。
しかしながら、2000年IPO企業全体の売上高の平均成長率が42%であるのに対し、IT銘柄77社の売上高成長率は86%と約2倍の高さである。投資家は、IT銘柄の高い成長力に対し、どれくらいのプレミアムを支払うかを考えることが重要となっている。
クロスセッション分析によると、2000年12月29日終値ベースのPSR(売上高時価総額倍率)は、以下の3つの変数に影響される。(1)売上高の成長率、(2)売上高利益率、(3)ITセクターに属する否か。PSR=(1.2×売上高成長率)+(15.7×売上高利益率)+(3.7IT)-0.3という関係が存在した。例えば、このモデルが予測するところでは、売上高成長率が200%、売上高利益率が10%、そしてITセクターに属するIPO企業であれば、PSRは7.4倍となり、予想売上高が10億円であれば74億円の時価総額になるということである。
このモデルが意味する点は3点ある。第一に、IPO企業がIT銘柄はPSRを3.7ポイント押し上げる効果がある。第二に、PSRは売上高の成長率よりも売上高利益率の方が強い影響を与える。この2つを前提とすると、売上高の成長率のみに着目する投資手法は充分な投資パフォーマンスをもたらさないことが示唆される。第三に、投資家のみならずIPO企業側にとっても、現在の利益をとるべきか、将来の成長をとるべきかが難しい選択となるが、このモデルを用いることにより、トレードオフの関係を考慮した上で、企業価値を高める方法を見つける一助となろう。
ただし注意点としては、モデル式はある一時点をとった時に存在した関係を意味し、常に安定的な関係を担保するものではないということである。個別企業分析も加味した上で、適当なバリュエーションを探すべきである。売上高の成長率と売上高利益率は予測値であるので、この2つを正確に予測することが重要であり、ファンダメンタルズ分析を軽視すべきではない。
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