アサヒビール(2502)がついに発泡酒に進出した。2月下旬に発売した後、すでに300万ケースを出荷し、出足は絶好調のようだ。さすがスーパードライで培ったブランド力をもつアサヒビール。発泡酒でも一人勝ちか。これで話が済むなら簡単なのだが・・・。
問題はこれからだ。「アサヒ本生」はキリンビール(2503)やサントリーの発泡酒からシェアを奪ったのだろうか。どうやらそうとは言えないようだ。「アサヒ本生」の発売後、アサヒの「スーパードライ」の売上が10%以上減少しているのだ。自社製品同士の競合が生じているのは間違いない。
おそらくこれは予想されたことである。発泡酒ファンならキリンの「麒麟淡麗」から「アサヒ本生」に乗換えてもおかしくない。しかしアサヒのファンなら「スーパードライ」から「アサヒ本生」に乗換えてしまうかもしれない。アサヒの発泡酒参入はこの諸刃の剣をの要素を持っていたのだ。アサヒビールが発泡酒参入を控えていたのも、ひとつにはここに理由があったようだ。
●発泡酒人気の秘密
ビールと発泡酒を分ける境界線は麦芽使用比率。これが67%以上ならビール、67%未満なら発泡酒となる。酒税上の定義なのだが、特にこれが25%未満になると酒税が非常に安くなる。350ml缶で言うとビールなら酒税77.7円、麦芽使用比率25%未満の発泡酒だと36.75円。酒税だけで40円以上も安くなるのだ。
発泡酒市場は年々拡大している。1999年度ではビールと発泡酒を合わせた市場の約18%を占めるまでになっている。2000年度はさらに上昇する見込みだ。やはり価格が安いことが一番の要因で、ビールから需要がシフトしているようだ。
だがそれ以外に興味深いデータがある。発泡酒を選ぶ消費者にアンケートをとったところ、ビール代わりに飲む人は約75%だった。これらの人はビールも発泡酒も同じようなものと考え、そのため価格の安い発泡酒を選ぶようだ。しかし25%の人はビールとは違うものと感じている。特に女性の中にはビールは飲まないけれど発泡酒なら飲むというタイプも増えてきている。
●依然、キリンがトップ
最近の若い人は酒を飲まなくなったと言われる。一概にそうとは言えないが、ビールを含めた酒類市場は確かに伸び悩んでいる。若い人や女性という新たな層に向けてのマーケティングおよび商品開発は、ビールメーカーにとって戦略上非常に重要なところだ。ビール市場では好調なアサヒビールもついに発泡酒市場を無視できなくなったと言えよう。
1998年にビール市場でアサヒがキリンを抜きトップに踊り出た。アサヒは経営資源を「スーパドライ」に集中する戦略をとっていたが、この強力なブランド単品でキリンの「ラガー」「一番搾り」など複数ブランドを打ち負かしたように思えた瞬間だった。だが、現実にはその時点でキリンは「麒麟淡麗」で発泡酒市場に参入し、布石を投じていた。キリンの「ラガー」「一番搾り」がシェアを落とした理由は、アサヒの「スーパードライ」にあったのか、自社の発泡酒にあったのか明確な答えはない。だが、ビール、発泡酒を合わせた市場では依然キリンは約40%のシェアを握り、約35%のアサヒを引き離している。アサヒがキリンに勝ったとは言えない状態だ。
●市場拡大に「淡麗」が寄与
発泡酒が発売されたのは1994年、サントリーの「ホップス」が始まりだった。麦芽比率65%とビールに近いものだが、当初から低価格のインパクトは強かった。その後サッポロビール(2501)が麦芽比率25%の「ドラフティー」で参入、1996年にはサントリーは麦芽比率25%の「スーパーホップス」を投入し、発泡酒での地位を高めていった。
キリンが参入したのは、さらに2年後の1998年。明らかに後発だ。しかし皮肉なことに発泡酒市場が大きく伸び始めたのはこの年。キリンの「麒麟淡麗」が大きく寄与したことは否めない。「麒麟淡麗」は瞬く間に発泡酒市場でシェアを伸ばし50%を超えてしまった。営々とサントリーやサッポロが切り開こうとしていた市場を一気に後から奪い去った形である。商品開発力など総合的実力の差だろう。特に販売力の違いは大きい。
さて、アサヒの発泡酒参入はキリンのさらに3年後となった。最後にかなり遅れての登場だ。現在の発泡酒市場はキリンの「麒麟淡麗」が過半のシェアを握るが、サントリーの「スーパーホップス」「マグナムドライ」が残りの3分の2、サッポロの「ブロイ」が3分の1をめぐり争奪戦を繰り広げている状態。だがアサヒの参入でビール市場同様キリン、アサヒの一騎打ちとなる可能性が高い。
●アサヒの“2冠”は可能か?
キリンの時と同じように「アサヒ本生」は、発泡酒市場で急速にシェアを伸ばすと考えられる。しかし同時に「スーパードライ」はシェアを落とすことになろう。ビール市場でキリンとアサヒの再逆転もあり得る。アサヒは自らを後に引けない状態に追い込んだ形だ。
もし「アサヒ本生」が「スーパードライ」ほどのブランド力を築けず、中途半端なシェアしかとれなければキリンを抜くことなど到底無理だろう。成功体験や自信が崩れることで思わぬ衰退の可能性もある。
しかし「アサヒ本生」が確実に「麒麟淡麗」など他社の発泡酒から売上を奪うなら、「スーパードライ」の落ち込みを最低限に抑えることも可能だ。もしビール、発泡酒の両市場でトップブランドを持つことになれば、その時こそ名実共にアサヒは首位を勝ち取ることになる。今後の「アサヒ本生」の行方からは目を離せない。
[フィスコ提携アナリスト 松本 竜太郎]
2001/3/26
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