フリース850万枚、Tシャツ2,500万枚―。お馴染みユニクロの実力だ。ユニクロを展開するのはファーストリテイリング(9983)という企業だが、勿論業績は絶好調。前8月期の売上約2,290億円、経常利益約610億円に対し、2001年8月期は売上約3,300億円、経常利益約800億円の予想だ。
しかしユニクロが良いからと言って、ファーストリテイリングの株が“買い”であるとは限らない。ファーストリテイリングが優れた企業であることは皆が知っている。つまり既に株価に織り込まれている可能性が高いからだ。株価は最高値から40%ほど下落しているとは言え、2年前と比べると10倍以上の水準。売上が3倍、利益が5倍になっても、株価が既に10倍になっていたのでは、その銘柄は割安とは言えない。むしろ割高かもしれないわけだ。
割高・割安の分析、株価にどの程度まで織り込まれているのかという判断はプロでも難しい。ただPER20倍程度という株価水準から言うと、株式市場は成長企業というよりむしろ成熟企業と評価しているようだ。確かに時価総額約1兆円というのは巨大企業の仲間入りする水準でもある。株価が上昇するには想像を超えるさらなる成長が必要だ。
日本のアパレル業界というパイが大きくなることはまず考えられない。むしろ、アパレルの市場規模はピーク時から25%程度縮小している。ユニクロがさらに成長するには他社のシェアを奪い続けなければならない。可能だろうか? 他社も低価格商品の投入など、ユニクロを意識した戦略が目立ってきた。この答えはユニクロの競争力に求められる。これがファーストリテイリング株に投資する上で最大のポイントとなる。
●ユニクロの競争力とは
ユニクロの強さというのはいくつか挙げられるが、ここではポイントをひとつに絞る。
それは価格と品質である。つまり品質から見て格段に価格が安い、逆に言うと価格から見て品質が格段に良いということだ。アパレルメーカーや小売店など競争相手は、この点において明らかに負けている。
ではなぜユニクロは安いのか。中国で作っているから? 残念ながらそれは正解とは言えない。それだけなら他社も簡単に真似できるはずだ。ユニクロが安く商品を供給できるのは、原材料調達から製造、物流、販売にいたる商品供給のプロセスを最適化する仕組みを構築したからである。SCM(サプライチェーンマネージメント)と呼ばれるものであり、これにより、流通過程の在庫を最小限にとどめて無駄を減らし、売切れによる機会ロスを削減し、粗利益率の向上を計ることができるのだ。最近話題にのぼることが多いが、概念そのものはかなり昔から存在する。歴史を遡るとトヨタのかんばん方式にたどりつくくらいだ。
衣料品は特に流通経路が長く複雑であるため、このシステムを構築できれば製造原価は飛躍的に低減できると言われている。しかもユニクロはそれを人件費などが安い中国で構築したのだ。そして衣料品アイテムを絞りこむことで単品大量発注の実績を作ることに成功し、さらなる製造原価低減につなげたことも見逃せない。
他社はこのような仕組みを構築できるだろうか。ファーストリテイリングで証明されているのだから理論的にできることは間違いない。ワールド(3596)やイトーヨーカ堂(8264)の衣料品部門はこの仕組みを整えつつあるようだ。しかし多くの業者は理想にはほど遠い。最近、百貨店などの衣料品部門でこのSCMを取り入れるところが多いと聞く。しかし自分のところが余分な在庫を持たないために、取引先に負担をかけているだけというおそまつなところが多いのが実態だ。
●Vs.無印良品
価格を下げるために品質の劣る商品を作ったり、粗利益を削るといったレベルの低い方法で対抗しようとする企業も少なくないが、それでは絶対に勝てない。もはやユニクロの価格競争力はそんなレベルではないのだ。
ユニクロの競争力を語る上で最も効果的なのが「無印良品」の良品計画(7453)との比較だ。無印良品もユニクロと同様に自主企画製品を販売するSPA(製造小売業)であり両社には共通点が多い。団塊ジュニアを中心とした若年層の人気も高く、株式市場の評価も高い優良企業だった。
しかしユニクロとの戦いにおいては明らかに敗北した感が強い。同社もSCMのような仕組みを構築しているし、良いものを安く売ることについては定評があったにもかかわらずである。ユニクロは無印良品と比べても、価格・品質で勝っているのだ。
これについては、ユニクロと無印良品の商品について、専門的な品質分析をする必要はない。ユニクロは既存店売上で前年比50~100%増となっているのに対して、無印良品は2桁以上の減少、中でも衣料品不振が目立っている。売上げ、つまり消費者の目がすべてを物語っているのだ。
●セーフガードが発動されても・・・
結論を言うと、ファーストリテイリングと同レベルの仕組みを構築できるところはかなり限られると言って良い。しかも時間がかかる。信じられないかもしれないが、ユニクロはまだまだシェアを伸ばしそうだということだ。少なくとも強力な競争相手が現れるまでは、一人勝ちとなる可能性が高い。
日本の繊維業界がセーフガードの発動を働きかけたことで一時ファーストリテイリングの株は急落した。しかし、発動は申請から最低8カ月の調査を経て決定される。しかも輸入が制限されると言っても前年実績の6%増まではOKなのだ。最悪の場合でもユニクロの輸入量が減少に転じるわけではなく、影響はそれほど大きくないようだ。
また、同社の柳井正社長は興味深い発言をしている。「輸入制限が実施されれば現実にはユニクロのような輸入実績のあるものが優先されてしまう。取引先や商社も効率を考えれば実績のある企業を優先すると思う。その結果中途半端な業者が淘汰され強いものだけが生き残る」。
目先ではファーストリテイリングにとってマイナス材料に見えるセーフガードであるが、現実的には同社をより強めるものとなってしまう可能性が高い。皮肉な話である。
[フィスコ提携アナリスト 松本 竜太郎]
2001/3/12
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