「こんなひどいリポートは初めてだよ」――米系大手資産運用会社のファンドマネジャーは、欧州系証券会社のハイテク担当アナリストのリポートに怒りをあらわにする。ネットバブルが既に崩壊したというのに、今なおIT関連相場をやみくもに煽るような“超強気論”を展開しているためだ。
ネットバブルの絶頂時、必要以上にIT関連銘柄を推奨したアナリストたちは、バブル崩壊後、投資家たちの厳しい批判にさらされた。が、未だに懲りないアナリストもおり、このファンドマネジャーは「このままでは個人投資家の株式離れが加速しかねない」と危機感を募らす。
●「客観的」が大前提だが・・・
アナリストとは、企業の経営や製品、株価の水準などを分析する専門家のこと。投資信託会社や投資顧問会社など株式を購入する側(バイ・サイド)と、株式の購入を機関投資家に勧める側(セル・サイド)の2つのタイプがあり、いま株式市場で問題視されているのはセル・サイドのアナリストである。
彼らの仕事の中で最も重要視されているのが、企業の経営内容とその時々の株価水準が適正かどうかを判断し、リポートなどを通じ投資判断の材料を提供することだ。オーバーシュート(行き過ぎ)しがちな株価が実態以上に上下した場合、「割高」あるいは「割安」のシグナルを送ることが、アナリストに求められる本来の役目である。
しかし、アナリストの大半は、証券会社に帰属しており、客観的な分析を試みようとしても、「証券会社から常に営業を邪魔するようなリポートを書くなとの圧力がかかる」(米系証券の幹部)という。
●アナリストは「バブル」がお好き
1980年代末期のバブル経済期には、企業の経営内容とは無関係に保有資産の多寡が株価に反映され、当時のアナリストの多くは「高騰し続ける地価を基に企業の保有する土地を積極的に評価した」(同)という“前歴”がある。
それから10年後。昨年秋から今年2月にかけて、IT分野の高成長を期待したネットバブル相場が形成され、光通信(9435)をはじめ経営基盤のぜい弱なベンチャー企業の株がアナリストたちにより実力以上に、しかも一斉に「買い推奨」された。一部にはこうした企業のホームページにも登場、株価の煽動に一役買うアナリストまで登場した。
春先のネットバブル崩壊後、こうした“不良アナリスト”たちは、ごうごうたる批判に圧され、いったんはなりを潜めたかに見えた。
●次の標的は「デジタル家電」
しかし、新たな火種が早くもくすぶり始めている。彼らの次なる標的は、家電製品にマイコンやシステム技術を組み込む「デジタル家電」。このための半導体や関連部品は価格変動が激しい上、デジタル家電自体がどの程度普及するかはまだ評価が定まっていない。アナリストの評価は「弱気」「強気」の両論に分かれているが、特需を演出したい証券会社幹部からは、早くもお抱えのアナリストに「煽れ」との指示が出始めているという。
機関投資家は「また始まったか」と冷静だが、「個人投資家はまたまたカモにされる」(別の米系資産運用会社)気配が濃厚。「売ってなんぼ」という経営姿勢を捨て、アナリストに客観的なリポートを発行させる土壌を整えなければ、証券界に明るい未来はない。
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