ベクター(2656)は、8月11日にナスダック・ジャパン市場グロースに新規上場する予定になっている。公募株式数は1,000株で、1株当たり公募価格は仮条件の上限である120万円に決定した。申し込み期間は8月4日までとなっている。
同社は、ソフトウェアのダウンロード配布・販売ではタイトル数など圧倒的な存在で、比較になる企業は日本のみならず世界でもないだろうといわれている。
どういった事業展開を行なっているのか、今後の戦略も含めて梶並伸博社長に聞いてみた。
(聞き手 別井貴志)
――どういった事業を展開しているのか
梶並氏:出版社でスタートして、CD-ROMを付録にした書籍でフリー、シェアウェアを販売してきた。しかし、出版から撤退し、ここ3年間では完全にインターネット企業となった。
――インターネット事業とは具体的には
梶並氏:大きく分けて3つの事業を展開している。まず、ソフトウェアの流通。フリー、シェアウェアやプロダクトソフトを流通させて、その手数料収入を得ている。もうひとつは、ベクターのWebサイトを使った広告収入。最後は、裏方的な事業であまり知られていないが、インターネットの広告サーバーの運営を受託している。ソフトバンク・ファイナンスグループのイー・トレード、モーニングスターなどの広告サーバーはベクターが運営している。
――株式上場を決めたのは
梶並氏:フリー、シェアウェアを扱っている「ライブラリ」は公共性が高く、いわば国会図書館のようなもの。ここに来れば、ほとんどすべてのソフトウェアがあるといっても過言ではない。これをひとつの私企業が持っていていいのか、パブリックにしておかなければいけない、という気持ちが以前からあったからだ。
――ナスダック・ジャパンを上場市場に選んだ理由は
梶並氏:もともと、店頭市場での公開を準備していたが、直前期の決算が赤字に転落したこともあって店頭だといわゆる2号基準になってしまい、流動性が確保されるかどうか懸念した。インターネット企業に生まれ変わったので、国際性も考えるとナスダック・ジャパンが最も当社に合っているだろうと判断した。
――ソフトバンク・グループとの関係は
梶並氏:2000年12月にソフトバンク(SB)・コマースとパソコン用ソフトウェアのダウンロード販売事業において業務提携している。提携により、当社のWebサイトでダウンロード販売するプロダクトソフトの仕入れ業務をSB・コマースが引き受けることになり、品揃えを拡充することが出来るようになった。また、消費者向けのソフトのダウンロード販売はベクターが担当し、SB・コマース自らは行なわないことも契約している。
――出資関係は
梶並氏:業務提携と同時にSB・イーコマース(当時はソフトバンク・コマース)に対し第3者割り当て増資を実施した。SB・イーコマースは現在、保有株式数1万200株(持株比率46.6%)で筆頭株主。また、1999年3月にはヤフー(4689)から出資を受けており、同3,000株(同13.7%)で第3位の株主。
――オンラインソフトの市場規模とユーザー層は
梶並氏:ソフトウェア市場全体でおよそ6,000億円規模。そのうち、オンラインソフトが占める割合は1%(60億円)にも満たない。6,000億円のうち、推定でバンドルソフトが約1,000億円、法人ユーザーが3,000億円、一般個人消費者ユーザーが2,000億とみられる。バンドルは除き、法人、個人市場どちらも、オンラインソフトの市場は1%に達していない。
――現在のターゲットはそのなかでも個人となっているが
梶並氏:確かにそうだが、決して他の2つの市場を無視しているわけではない。具体的な計画もいろいろと練ってはいるがファイナンス期間中ということもあって詳しくは述べられない。ただ、今後は法人向けも当然ターゲットとして考えていかなければならないだろう。法人向け市場進出もずいぶんと考えているが、単に請求書を送付すれば払ってくれるというマーケットではない。与信はどうするのか、課金の方法をどうするのかなど問題も多い。十分に検討してから真剣に取り組まないと、法人マーケットはきちんと出来ないと考えている。
――オンラインが1%にも満たないということはそれだけ成長余地があると判断していいのか
梶並氏:今後、オンラインソフト、ダウンロード販売のマーケットが増大していかなければ、ソフトウェア市場自体がダメになるのではないか。ハードウェアの昨年の伸びは金額ベースで40%、台数ベースで70%となっているが、ソフトは4%しか伸びていない。相対的に伸びが低いのは、ソフトにあわせた流通チャネルがないためと思う。お年寄りの方々なども実はソフトを買ったり、使ったりするのだが、そういった使いたいソフトの存在を知らない状況なのだ。流通チャネルもない。その一方で、そういった人たちもPCは購入しているので、もっと存在を知らせると同時に流通チャネルも確保すべきだろう。
――そのための策は
梶並氏:具体的な今後の展開のひとつとして「ライブラリ」で「マイベクター」というサービスを行なう予定。フリー、シェアウェアは利用者自身が絶えずチェックしていないと、知らないうちにバージョンアップしているケースが多い。これを、自動的に知らせるという無料サービス。登録すると登録者専用のWebページが作成され、使っているソフトが自動的にリストアップされる。リストのソフトがバージョンアップされた場合、電子メールで通知がある。このサービスは一見単純だが、ベクターの圧倒的なデータベースがあってこそ可能になる。さらに、利用者の利用状況や傾向も分析して、おすすめソフトなど、その人に合った、もしくは欲しているソフトなどを紹介する仕組みも考えている。このサービスで集客力を大幅に高めることになろう。
――ベクターの目指すところは
梶並氏:6,000億円のマーケットで、どのくらいのシェアを取っていけるかというのが今後の課題であり目標。マーケットサイズ自体も当社の影響で拡大させていけたらよいと考えている。ベクターの成長を決定する最大の要素はインターネットの回線状況・環境と料金の問題。これらの諸問題が早く改善されることを望んでいる。
□関連サイト
・ベクター
http://www.vector.co.jp/
・ベクターの公募価格は上限の120万円
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/02/doc97.htm
・ダウンロードサイトのベクター、ナスダック・ジャパンに8月11日新規上場(INTERNET Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2000/0714/ vecter.htm
別井貴志
2000/08/04
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