日銀の速水優総裁は2日の衆院予算委員会で、「ゼロ金利政策」について「解除の条件であるデフレ懸念の払拭が展望できる情勢に至りつつある。こうした中で極端な緩和政策を続ければ、いずれ経済・物価情勢の大きな変動をもたらしたり、より急激な金利調整が必要となるリスクが増大する」と述べ、早期解除への意欲を改めて示した。
しかし、そごうの経営破綻降の株価下落と政府・与党による「ゼロ金利継続」包囲網で月内解除は困難な情勢。決定が9月以降に持ち越されれば、米大統領選挙などの難関が待ち構えており、早期解除はおろか「年内解除」にさえ暗雲が漂いかねない。
●日銀内に奇妙な敗北感
日銀は7月の金融経済月報で、「景気は緩やかに回復している」と事実上の景気回復宣言に踏み切った。にもかかわらず、同月17日の政策委員会・金融政策決定会合で解除を見送ったのは、そごうの経営破綻で市場が不安定化したためで、日銀は、ショックの沈静化に時間を置くとする異例の文書を公表。1カ月後の決定会合における解除断行のメッセージを強くにじませた。
しかし、ここにきて日銀政策幹部の間に奇妙な敗北感が広がっている。そごう問題が日債銀の譲渡延期問題に波及したことで、平均株価が1万6000円を割り込み、円相場も1ドル=110円に向け軟化するなど、市場の不透明感が一層深刻化。解除先送りにもかかわらず、あえて景気判断を前進させた7月の決定が、日銀自身を追い詰めている。
短期金利上昇を先読みして、長めの資金を積極的に準備していた大手銀行の資金ディーラーらは、はしごを外された格好で、日銀当局への不信感が増大。日銀が標榜する「市場との対話」は機能不全の危機にある。
●「外生要因」に振り回される
ゼロ金利は、実は6月の時点で解除寸前というところまでいったのだが、「衆院解散中の政策変更は政治との摩擦を生む」との判断から断念。7月についても解除が見送られた背景には、「そごう問題」の影響が読めなかったことに加え、沖縄サミットを前に、政府から日銀首脳に解除先送りの直接的な働きかけがあったとされている。そごうやゼネコンを始めとした不良債権といい、政治圧力といい、日銀の言う「金融政策の外生要因」に振り回されているのが現状だ。
9月に入れば、もうひとつの「外生要因」である米国の株式、債券への影響に注目が集まるのは避けられない。日本の余剰資金が米国の資産価格の大きな下支え要因である以上、引き締め方向の政策変更は米国株大幅調整などのリスクを高めるのは確実。11月の大統領選挙が間近に迫る政治日程が制約要因として立ちはだかる可能性は大きいのだ。
一方、国内でも、秋口には補正予算論議が熱を帯びる可能性があり、景気優先の政府・与党と、ゼロ金利解除への前傾姿勢を強める日銀が正面衝突する場面も予想される。
□関連サイト
・ゼロ金利の年内解除に暗雲
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/02/doc89.htm
・市場は今年度補正予算に注目
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/01/doc81.htm
小倉 豊
2000/08/04
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