大手百貨店そごうグループの過重債務処理をめぐる政官の迷走から、日本の不良債権問題の根深さが再び浮き彫りになっている。新生銀行(旧日本長期信用銀行)を買収した米系投資ファンドが日本政府と結んだ「瑕疵(かし)担保特約」が、「そごう問題」で初めて発動されたことで、今後も政府が新生銀行の損失を丸抱えせざるを得ないことが白日の下にさらされ、国民は驚愕した。が、幕末の不平等条約を連想させるこの「特約」を受け入れなければ、日本の金融システムは旧長銀の破綻処理で崩壊していたかも知れない。それが日本経済の寒気のする現実なのである。
●実態隠して契約急いだ金融当局
「瑕疵担保特約」が結ばれた背景には、旧長銀保有の債権(資産)を、金融再生委員会が「適」と「不適」に分類した際のまやかしがある。当時、「適」資産は、善良で健全な企業への債権だと説明され、新生銀行に引き継がせた。それ以外の「不適」な借り手は、整理回収銀行(当時)に分離・譲渡され、融資継続の道を絶つ「極刑」が宣告された。
この時、水島広雄前会長の独裁によるバブル崩壊後の無軌道な経営を知らないはずがない再生委は、それでもなおそごうを「適」と判定。買収交渉中の米系ファンドは当然のことながら異を唱え、そごうの詳細な経営情報の開示を求めた。
だが、再生委は拒み、1976億円の債権に対し、999億円もの税金を投入して貸倒引当金を用意。なおも疑念を抱く買収側を屈辱的な「特約」でなだめ、やっと譲渡契約を飲ませた経緯がある。
このいかがわしさが、官僚や政治家の不正、怠慢に由来するなら、まだ救われる。しかし実情は、当事者を糾弾すれば事足りるほど生易しくはないのだ。
そごうの倒産(民事再生法の適用申請)は、IT景気が芽生える経済社会に不安心理を撒き散らし、株、円、金利を急落させた。これを、金融不安の真っ只中で引き起こせばどうなっていたか。しかも、複数、同時に。
●カギ握る景気回復と公的資金
再生委が震え上がり、「極刑」を宣告できなかったまやかしの「適」企業は、ゼネコン、流通など、新生銀行のバランスシートの中で今も生き延びている。
今年度後半、いくつかの有名企業が、そごう同様に刑場に引き出されることになるだろう。果たして、金融システム不安の再燃は必至だろうか。望みの綱は、景気の立ち上がりと、血税投入の可能性を孕んだ総額70兆円の公的資金枠が握っている。
□関連サイト
・金融再生委員会
http://www.fsa.go.jp/frc/
・預金保険機構
http://www.dic.go.jp/
小倉 豊
2000/07/25
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