FINANCE Watch
荒療治以外に策なし~海外投資家が関心寄せるゼネコン処理

  年度末の株価水準を押し上げるPLO(プライス・リフティング・オペレーション)が功を奏し、日経平均と東証株価指数(TOPIX)は危機的水準から急回復した。大手銀行は、株式含み益と優先株への配当原資をほぼ確保できたことで、“3月危機”回避が可能になったと安堵している。が、株式相場の“大復活劇”が、「経営トップの緊張感を緩ませる副作用をもたらした」(大手銀行幹部)ことも事実。PLOが「弛緩相場」を作り出してしまったわけである。一方。構造改革の進展を期待する海外投資家は、既に新年度以降の相場展開を描き始めている。日米首脳会談で国際公約化した「不良債権処理」の具体的なシナリオ、つまり不良債権の根源である「ゼネコン」の処理スキームを予想し始めているのだ。

  ●ゼネコンは未だ手つかずの状態
  「建設業向けが2.3兆円、不動産向け4.3兆円、流通業向け1.8兆円」

  27日の参院財政金融委員会の答弁で、柳沢金融担当相は東京三菱銀行(8315)と新生銀行を除く大手銀行が抱えるリスク管理債権(2000年9月末時点)の業種別内訳を明かすとともに、不良債権の最終処理(直接償却)への決意を改めて表明した。

  が、多くの海外投資家は柳沢氏の発言を「こうした債権の大半がきちんと処理されるはず」(欧州系運用会社)と皮肉交じりに受け止める。株式相場が上昇するたびに日本の危機感が後退、構造改革への取り組みが官民ともに緩むことを熟知しているからだ。

  今回も株式相場が急上昇。株価急落で枯渇していた不良債権処理の原資が復活したのだから、「今度こそ着実に取引先の選別と構造改革が進むのだろうな」という期待感が彼らの言葉の裏側に潜んでいるのは間違いない。

  海外投資家が最も関心を寄せているのが、ゼネコンの処理。23日に中堅の冨士工が破綻に追い込まれたが、「規模的が小さい上に、メーンバンクのさくら銀行(8314)のお家の事情で延命できなかったのが主因。構造改革の端緒とは言えない」(同)。

  加えて、「民事再生法というウルトラCが導入されてから、死んでも行き返ってくる建設業者が多く、淘汰がなかなか進まない」(大手ゼネコン幹部)という事情もある。

  ●「身売り」できないゼネコン
  海外投資家がゼネコンの動向に関心を寄せる背景には、同業界が抱える固有の事情がある。

  銀行界の足を引っ張りつづけている「不良セクター」には、ゼネコンの他にも流通という“爆弾”がある。多額の有利子負債を抱え経営不振に陥っているスーパー数社のことだ。が、こうした問題企業は「外資大手がなかなか進出できなかった日本の流通の裾野であり、万が一倒産劇があれば、真っ先にM&Aの対象になり得る」(米系証券)。地域や顧客層ごとに収益動向の分析も行いやすく、「数社で分割購入することも十分可能」(同)という。

  また、バブル期の過剰融資が元で経営危機にあえぐノンバンクや商社業界も同様との見方が多い。ノンバンクや商社は金融決済機能の一翼も担っている上に、ここ2、3年でリストラが加速、こちらも「即座に買い手が付く」(別の米系証券)とみられる。つまり、「法的処理が行われ、過去の遺産が清算されれば、経営破たんしたセイホのような形で再出発できる」(同)と見られている。

  しかし、業績の先細りが確実で、人の数だけが多いゼネコンに関してはこうした画が描きにくいのである。

  ●「ゴーン型」リストラができるか?
  日本のゼネコン業界が直面している経営危機を、海外勢はかつての日産自動車(7201)とダブらせる。

  系列企業とのしがらみが断ち切れず収益が著しく低下。系列企業の数を減らし、大胆なリストラを実行するしか再生の道がなかったのは、当の日産が一番良く知っていたこと。が、経営破たんぎりぎりの局面に追い込まれるまで日産は変われなかった。結局、資本提携先のルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏が「かつての日産幹部の誰もがやれなかった系列企業の整理や自身のリストラをたった1年でやってのけた」(米系資産運用会社)のは明白だ。

  流通や商社・ノンバンクのように、「身売り」による処理ができないゼネコン業界が目指すべき方向はハッキリしている。公共事業が減り、民需の回復も期待できない中では、「数だけが多い企業を法的に整理し、業界のパイ自体を縮小させるしかない」(同)ことは、海外投資家に指摘されるまでもなく、日本の経済・金融界は熟知している。

  しかし7月の参議院選挙を控え、ゼネコン業界を有力票田とする自民党の抵抗は相当なものとなろう。またこうした同党の姿勢を目の当たりにすれば、銀行界も整理に尻込みするのは必至だ。

  不良債権問題の根源であるゼネコン業界をばっさりリストラできるゴーン型のリーダーが、政界や金融界から出てくるかは大いに疑問のあるところ。が、リーダーが出てこなければ、不良債権の抜本処理という国際公約が反故にされたとして、海外投資家の「日本売り」を招くことは必至。日本株が売り浴びせのリスクにさらされるだけでなく、日本自身が「変革」という好機を逃すという事態にもつながりかねない。

■URL
・PLOでまたも問題先送り~銀行含み益を“復活”させた官製相場
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/28/doc2387.htm
・PLOを“成功”に導いた凄腕は?~政局にも微妙に影響
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/28/doc2383.htm

(相場英雄)
2001/03/29 11:06