米国景気の減速と日本発の金融不安への懸念で1万1433円88銭（3月15日）まで急落した平均株価が瞬く間に回復、年度末の株式市場は堅調地合いを維持している。底割れ寸前の相場を急反転させたのは、金融の量的緩和にタイミングを合わせた公的資金による買い支え（19日）。PLO（プライス・リフティング・オペレーション）はその後も続き、平均株価は1万4000円台目前まで急伸、東証株価指数（TOPIX)も1300ポイントを回復した。が、一連の動きを、市場関係者の多くは冷ややかに受け止める。と同時に、問題がまたも先送りされたとの失望感も広がっており、年度明けでこうしたオペレーションがなくなれば、東京株式市場は再び下落リスクにさらされる可能性が高い。

　 ●「底打ち」観測の裏で
　 かねてから経営不安が囁かれていた中堅生保の東京生命保険が23日、9,800億円の負債を抱え事実上破綻。この日は、中堅ゼネコンの冨士工も831億円の負債を抱え破綻した。東京生命破綻の情報は同日の朝刊などで寄り付き前に、冨士工についても後場段階で市場に伝わっていたが、同日の終値は日経平均が前日比360円、TOPIXも同22ポイント上昇した。

　 「構造改革に向けて、生き残りが難しい企業は容赦なく退場させられることの証左」（大手証券）。2社の破綻について市場は、表向きこう評価。東京生命への支援を放棄した大和銀行（8319）についても、「これ以上問題企業への支援負担が増えることがなくなった」（同）と評価、赤字決算に転落するとの見通し発表も“買い”材料視された。

　 表面上は、日本株が底打ちし、株価が力強い上昇局面に入ったとのコンセンサスが得られた格好だが、実情は違う。「PLOが着実に下値を支えていた」（米系資産運用会社）のである。

　 ●“短期限定”の外人買い
　 当然のことだが、PLOによる株価底上げには限界がある。

　 市場筋によれば、19日からの5日間、オペレーションに振り向けられた公的資金は1,000～1,500億円程度。買いに出たのは海外投資家で、投機的な売買を手掛けるヘッジファンドのほか、「欧米の大手年金筋からの注文が相当数入った」（同筋）とみられる。

　 海外勢が主にハイテクや電機、通信株など株式指数への影響力が高い銘柄中心に買いを入れたため、先の“底打ち論”もがぜん真実味を帯びた、というわけだ。

　 が、株価上昇の“主役”を演じた海外投資家のスタンスは、底打ちを見越したものとは程遠いのが実情。というのも、「欧米の主要株式市場が調整色を一層強めたため、消去法的に日本株に手を出したにすぎない」（欧州系運用会社）からで、短期的な値上がり益のみを狙いにきているだけなのだ。

　 年度末の日本株が例年、“お化粧”によって好パフォーマンスを上げることは広く知れわたっている。加えて、今年は構造改革や日銀の量的緩和という分かりやすい材料が出ている上に、「官製相場が展開され、確実に短期の値上がり益を享受できる」（同）のだから、海外勢の買いにも力がこもるのも当然のこと。海外投資家が根っ子のポジションを「バイ」に振り向けたわけではないのだ。

　 ●見透かされた「官製相場」
　 市場関係者の間で囁かれている平均株価の上値のメドは「1万4000円」。「大手銀行の株式含み損益が概ねトントンとなるレベル」（銀行系証券）だからだ。

　 外資系証券の試算によれば、年度末30日の株価（終値）がこの水準まで回復すれば、東京三菱銀行（8315）、住友銀行（8318）、三和銀行（8320）、住友信託銀行（8403）の含み損益が再び「含み益」に転換。公的資金の注入を受けた銀行の大半が、優先株への配当を容易に維持できる。

　 ここにきての株価回復を演出しているのが、PLOによる「官製相場」で、大半の関係者は「30日までに1万4000円の大台に乗る」（同）と予想する。が、PLOの背後にある“お上”の意図を、市場関係者はとっくに見透かしており、「新年度に入り、PLOによる買支えや海外投資家の買いがなければ、再び米国株の動向や構造改革の進展度合いに振り回される地合いに逆戻りする」（別の銀行系証券）ことは確実。

　 官主導の“問題先送りPLO”は、海外投資家による「売り抜け」など、年度明けの相場をぶち壊す危険性をはらんでいる。