「役所の中の役所」とまでいわれ、その官僚的な体質が指摘されてきた東京証券取引所。その東証が3月15日、株式会社化を検討する「組織形態のあり方に関する特別委員会」の中間報告をまとめ、「株式会社に組織変更することが望ましい」とする方針を発表した。一方、東証に対して強烈な対抗意識を燃やしてきた大阪証券取引所は4月1日から株式会社大阪証券取引所(資本金40億円)として新たにスタート。従来の非営利主義から正反対の利潤追求型へと取引所経営が急速に変わろうとしている。
東証では早ければ10月から株式会社に衣替えしたい意向だが、その際は現在の正会員(3月末で119社)に株式を均等に割り当てる形で発足する予定。当然ながら、従来の理事会が取締役会となるわけだが、取締役会の規模は大証が18人以内、東証は10人程度が目安としている。「取締役の人選は、これまでの慣行にとらわれることなく人物本位で行う」(東証)という。ならば、大蔵(現財務省)官僚の天下りが指定席になっていたトップ人事にもメスが入るかというと、まだ流動的。「民間出身の巽理事長が辣腕(らつわん)をふるう大証ならともかく、東証がそこまでできるかどうか」と兜町では冷ややかに見る向きも少なくない。
●上場による資金調達に眼目
大証や東証がなぜ株式会社化を急いでいるのか。「市場間競争の激化に備える」「利便性・信頼性・効率性の向上を図る」―いくつか理由は挙げられているが、ざっくりいえば「資金需要対策」が1番の動機といえるだろう。ちなみに東証が計画中の「ITマスタープラン」では取引システムの大規模な再構築に要する投資額は2006年3月期までにざっと400億円。株式会社化と上場によって、エクィテイ・ファイナンスを実施しなければ調達は到底、無理な金額だ。
売買シェアで圧倒的な差をつけられている大証は、「市場間競争において生き残るための必須の方策」と株式会社化の意義を強調。こちらも膨大なシステム投資計画が背景にある。現物市場の売買代金シェアでみると、1996年に大証は20%(東証74.8%)だったが、99年には10.5%(同88.3%)とほぼ半減。その後も低迷が続している。ナスダック・ジャパン市場の開設(2000年6月)など積極的な手を打ってはいるが、「役職員の意識改革を図って、コスト意識を格段に強めないと地盤沈下は止まりそうにない」(大証幹部)との危機感がある。
●「公益性」とのバランス確保が焦点
ただ、ここで問題になるのは、非営利性(=公共性)を表看板にしてきた取引所が、利潤追求の組織に衣替えすることで、「公正な自主規制機能が損なわれるリスクがある」(中堅証券社長)という点だ。もっとも、 東証では「自主規制は品質補償であり、公正で公平な市場であるという東証のブランドを維持する機能として必要不可欠」とし、「利益追求とバッテインングしない」と強調している。公益性と営利性という水と油ともいえる要素を、どう調和させるか、きわめて難しい舵取りが迫られる。
ただ、取引所株が上場することになれば、上場されていた戦前がそうであったように、株式市場の消長を敏感に反映する一大シンボル・ストックとして脚光を浴びるのは確実。エクィテイ・ファイナンスが遡上にのぼる段階では、株価意識を高めた取引所の広告がテレビや新聞で派手に踊るかもしれない。
■URL
・大阪証券取引所
http://www.ose.or.jp/main_if.html
・東京証券取引所
http://www.tse.or.jp/
・株式会社化の背後に東証前理事長の思惑~赤字必至なのに後戻りできず
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/02/doc2161.htm
(神田治明)
2001/03/27
10:53
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