FINANCE Watch
株価急騰を演出した“官製相場”~海外投資家は静観の構え

  日銀の量的緩和決定を受けた21日の東京株式市場は、日経平均が前営業日(19日)比912円高、東証株価指数(TOPIX)も同75.80ポイント上昇し、文字通り急騰した。同日の夕刊各紙は、日米首脳会談で日本の不良債権処理が「国際公約」と化した結果、「構造改革が加速度的に進展するとの期待が高まった」と報道。表面上の事象をなぞっただけの見出しが躍ったが、実態は異なる。「色の付いた資金」(市場筋)、つまり官主導の影がちらつく大量の買い注文が先物市場に断続的に持ち込まれ、現物指数をつり上げていたのである。

  ●官主導の「しつこい買い注文」
  21日の取引は、前日の米国株急落を映す形でハイテクや電機などいわゆるIT(情報技術)関連銘柄が下げ、日経平均も定石通り小幅安で取り引きが始まった。せっかくの量的緩和も、日銀の意気込みとは裏腹に「実態面での効果は限定的」(国内系運用会社幹部)と見られていた上に、金融庁が検討を進めている不良債権処理のスキームについても「まとまるのは今月末」(同)とあって、買いがどっと入るようなムードではなかった。

  が、午前9時15分を過ぎたあたりから情勢が一変。先物市場での売り注文が少ない中、「小口の買い注文が持ち込まれた」(大手証券)ことをきっかけに、先物指数がスルスルと上昇に転じ始めた。

  小口の注文であれば、同額程度の売り注文をぶつけられて商いが終わるのがふつうだが、なぜかこの日は「しつこく買いが持ち込まれ続けた」(銀行系証券)。これを境に先物指数高が現物指数である日経平均との裁定買いを誘い、地合いが急変する。しかも、相場の実勢を無視するような指し値が入れられたため、市場関係者には「ディーラーが仕掛けているのではないことが直ぐに分かった」(同)という。

  「絶対に相場を下げるわけにはいかないという当局の面子をひしひしと感じた」。準大手証券の担当者は、「量的緩和の効果を最大限強調するために官主導の相場が形成された」と明かす。

  買い注文は現物市場にも広がり、「銀行株中心に大量の買い注文が持ち込まれた」(同)。 現物株の買いの主役は、信託銀行を中心とする国内金融法人で、「お上による買支えの意図がみえみえだった」(米系運用会社)という。前場段階でこうした見方が市場に広く浸透、材料なき急伸相場に否応なく追随させられた国内市場関係者は多い。

  ●海外投資家は「静観」
  一方、海外の機関投資家は前週までに売り込んだ分を買い戻すにとどまり、静観の姿勢を貫き通した。「構造改革実現の気配が出れば、真っ先に買ってくるはず」(銀行系証券)の外人投資家が、新規資金を動かさなかったのはなぜか。

  理由は明々白々。「経済対策を人質に取り、政府・与党内で権力闘争が繰り広げられているうちは『構造改革』が実現するかは見極められない」(欧州系の機関投資家)ためだ。

  米国株が不安定な動きを続けている中では、「米国株と連動性の高い日本株を、構造改革が進展しそうだという『希望』だけではとても買えない」(別の欧州機関投資家系)。しかも、官主導で人為的に“演出”された相場急騰とあっては、海外投資家が二の足を踏むのも無理からぬことだ。

  官製相場が展開された背景には「“あの人”の強引な手口ではなかったか」(別の大手証券)との見方も蔓延している。“あの人”とは、日銀に量的緩和を迫り続けた自民党の亀井静香政調会長のことだ。

  日銀が量的緩和に踏み切り、政策転換の意義付けを説明する際、「今回の措置が効果を発揮するには不良債権問題の解決など、金融、経済・産業面の構造改革が不可欠」と政治サイドにボールを投げ返した直後だっただけに、真偽は別にせよ、量的緩和を強引に迫った亀井氏が力づくで「効果あり」と証明せざるを得なかった、との観測が流れてもおかしくはない。

  ●「改革」に冷水浴びせる株価操縦
  日米首脳会談でブッシュ米大統領が言い放った「苦い薬は早く効く」の言葉どおり、市場関係者の多くが「不良債権処理に伴う企業倒産や大量失業という返り血を浴びてでも、構造改革を推し進めようとの覚悟を決めていた」(別の銀行系証券)ことは確かだ。が、この覚悟を21日の不自然な急騰、いびつな価格形成が水を指した。

  「量的緩和を実施しても株式市場に直接の影響は少ない」(日銀中堅幹部)と、当の日銀関係者でさえ効果が限定的とみていた。にもかかわらず、この日の理由なき急騰を見る限り、政治サイドから量的緩和の効果を強引に脚色する“ご祝儀”が出されていたことは間違いない。その副作用は?

  官主導の強引な株価操縦を、東京市場のシェア5割を押さえる海外投資家は冷ややかに見つめている。

■URL
・ゼロ金利復帰を決定~日銀、量的緩和に踏み切る
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/19/doc2318.htm
・株価急落させた新たな「リスク」~構造改革ブレーキに高まる市場の懸念
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/13/doc2262.htm

(相場英雄)
2001/03/22 09:44