情報は時とともに劣化する・・・
【1面トップ】
●捨て身でカード切った背水の日銀
「金融政策は日銀の所管事項。諸般の状況を考え、適切な対応がなされると期待している」
日米首脳会談に向かう途中、太平洋上で同行記者団と懇談した森喜朗首相は、日銀がゼロ金利を含むもう一段の金融緩和に踏み切ることへの強い期待を表明。日経、読売、産経の3紙は19日夕刊でこの首相を1面トップで報じた。
夕刊が配達されていた頃、日銀では政策委員会・金融政策決定会合の真っ最中。締め切りには間に合わなかった。
が、東京は1面トップで、「ゼロ金利復活など一段の金融緩和を決定、発表する」と、「ゼロ金利復活」を断定的に報道。「量的な金融緩和の目標値やゼロ金利復帰などが検討されている」(朝日)、「ゼロ金利政策への復帰などが有力になっている」(読売)などと慎重な表現で“逃げ”を打つ他紙とは対照的な“決め打ち”は、十分な裏付けがあってのことか。
◇はたして日銀は、市場、政府・与党、そしてマスコミの期待通り量的緩和に踏み切った。
「日銀当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う」
「なお、資金需要が急激に増大するなど金融市場が不安定化するおそれがある場合には、上記目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」
会合後、日銀が配付した発表文(「当面の金融政策運営について」)に「ゼロ金利」の4文字は見当たらず、速水優総裁も記者会見で「金利は市場に任せる。ゼロ金利に固定しようとするゼロ金利政策とは異なる」と延べ、ゼロ金利復活との見方を否定。日銀は金利を動かさなかった。
が、政策目標を「金利」から「資金量」に変更しても、当座預金の残高を増やすことを目標に潤沢な資金供給を行えば、結果的に短期市場の金利(現行0.15%)はゼロ%近辺まで下がり、ゼロ金利政策と同じ効果が生じる。
つまり、今回の日銀の政策変更は、ゼロ金利の<実質復活>、あるいはゼロ金利への<事実上復帰>を意味する・・・というわけで、新聞各紙は「ゼロ金利」の見出しの前後に<実質復活><事実上復帰>のいずれかを付け、このニュースを1面トップで報じた。
◇ともあれ日銀は、金融市場に供給する資金を大幅に増やす量的緩和に初めて踏み切り、「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロとなるまで、継続する」と公約。「通貨の番人として捨て身でカードを切った」(日経)。新聞(社説)は、自ら退路を断った日銀の決断をどう論評したか。
「『日銀も何かしろ』という声に押し切られた形である」
「これまで日銀が嫌っていたインフレ・ターゲティング論を半ば受け入れたに等しい」
前者は朝日、後者は毎日。ともに、ゼロ金利復活に反対の論陣を掲げてきただけに、量的緩和への評価は厳しい。
これに対し、量的緩和への転換をしきりに促してきた読売は、「金融政策にデフレ阻止の『非常線』が張られた」と、日銀の「決断」を評価。が、その一方で、昨年8月のゼロ金利解除に「誤りがあったのは明らか」とも指摘、謙虚に反省しない日銀に「謙虚に反省する」よう注文をつけている。日経と東京も同様の指摘を行っている。
最後に産経。“悪役”または“敵役”は見当たらない。
[メディア批評家 増山広朗]
■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm
2001/03/21
09:30
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