FINANCE Watch
銀行株大揺れの「真因」は?~ヘッジ・ファンドに“撹乱”の痕跡

  銀行株が激しく揺れ動いている。14日、格付け会社・フイッチによる邦銀19行の財務格付けの引き下げ検討が伝えられ、翌15日の東京株式市場は住友銀行(8318)が一時ストップ安するなど銀行株が暴落。フィッチでは「深刻な不良債権問題は、政府のなんらかの介入か営業環境の劇的な改善がない限り解決されず、株価下落で一層拍車がかかっている」とコメントしたが、銀行株の下げが響き、平均株価も同日午前中に1万1400円台まで突っ込んだ。ちょうどその頃、政府・与党の緊急経済対策初会合が首相官邸で開かれており、この席で宮沢喜一財務相が「将来、株式買い上げ機関が損失を生じた場合、政府が保証する」旨の発言を行った。財政資金で民間機関の損失を補填するという財務相の意向は、マーケットにもインパクトを与え、それをキッカケに銀行株は軒並み急回復に転じた。

  ●「宮沢発言」で買い戻す
  もっとも、株式市場関係者が宮沢氏の発言を好感したわけではない。「しょせんは問題の先送り。株価に不自然なバイアスをかける」(大手証券アナリスト)との見方がむしろ一般的だ。

  にもかかわらず、銀行株が下げ止まりから急回復に向かったのはなぜか。その理由のひとつとして、大手証券国際部の幹部は「ヘッジ・ファンドの買い戻し」を挙げる。この場合の「買い戻し」とは、売り建てていた玉(=株式)を手仕舞いすることを意味する。下がれば下がるほどリターンが膨らむのが、こうしたカラ売り筋。メリルリンチのグローバル・ストラテジストも最新レポートで「われわれが注目したのは、ヘッジファンドが日本の銀行株を大量に売ったという事実」と指摘した。フイッチの「格付け」動向を事前に知って売りを仕掛け、宮沢発言を受けて急きょ買い戻しに走って利益確定に動いたのでは―こんな見方がささやかれている。

  ●今度は「買い仕掛け」も
  ジョージ・ソロス氏の「カンタム・ファンド」などで知られるヘッジ・ファンドの数は現在、世界中で4,000前後と推定されているが、マーケットに及ぼす影響はきわめて大きい。ヘッジ・ファンドは、その名称とは違ってリスクヘッジを目的にせず、実際はリスクを果敢にとることで最大限のリターン獲得を狙う攻撃的なパフォーマンス・ファンドである。

  仮にヘッジ・ファンドの売り一巡が事実とするなら、銀行株は遠からず安定に向かうだろう。それを読んでか、16日から外資系証券からの実弾買い(=現物買い)も膨らみだした。国際的な格付け機関であるムーディーズも同日、大手邦銀については「株式市場の変動にかかわらず、引き続き格付けは安定的」と発表。「必要とあればシステミックサポートが今後も継続されるだろうとの強い確信に基づいている」(ムーディーズ)。

  ともあれ、政府から兜町まで“外資”にホンロウされ続けた、というのが今回の暴落劇。売り仕掛けのあとは、今度は「買い仕掛け」に動く可能性もある。

■URL
・フィッチ(プレスリリース欄に今回の情報)
http://www.fitchratings.co.jp/
・フィッチ・リポートが示す「緊迫度」~邦銀“格下げラッシュ”避けられず
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/15/doc2287.htm
・株価急落させた新たな「リスク」~構造改革ブレーキに高まる市場の懸念
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/13/doc2262.htm

(神田治明)
2001/03/19 11:17