【今週の主な政治日程】
▼19日(月)日米首脳会談(ワシントン)
▼25日(日)日ロ首脳会談(イルクーツク)いずれも現地時間
【政局の焦点】
●次期首相候補は渾沌とした状況
政局は、退陣表明したはずの森喜朗首相がその後予想外に粘ったため混乱したが、2001年度予算が26日に成立する見通しとなったため、4月中頃に新しい自民党総裁が選出され、23日頃までに新首相指名と内閣発足を終えるとの段取りがほぼ固まった。ただ次期首相候補は当初の野中広務前幹事長が圧倒的に有利との情勢が変化し、小泉純一郎元厚相のほか野中、小泉両氏以外の第3の候補が浮上してくる可能性もあるなど渾沌とした状況となってきた。
●小泉氏には「不気味さ」も
野中氏有利の理由は、党内最大派閥の橋本派に所属しているのに加え、同派の別働隊とみられる堀内派も同氏を支持していることが挙げられる。さらに自公保連立政権維持を前提とすれば、公明、保守両党が野中氏を支持していることも重要な側面支援。当面最大のライバルである小泉氏が郵政3事業民営化を持論とするなど「改革派」の顔を持ち、若手を中心に待望論が高まる一方、与党内では「何をやるか分からない不気味さがある」とも受け止められている。その点、野中氏が官房長官、幹事長でみせた安定した手腕は景気対策でも大きな期待が寄せられている。
●野中氏は「本当に参院選に勝てる玉」か
一方、野中氏の最大の難点は75歳と森首相より12歳も年長であること。加えて、当選回数が7回と比較的少ないことも、年功序列が依然幅を効かせる政界では、同氏への反感へとつながっている。また幹事長時代に衆院選などでみせた強権的手法に対し、党内に強い反発があるのは紛れもない事実。何より現在、解党の危機すらある自民党にとって、7月の参院選勝利は次期総裁にとって最大の使命。若さや改革派としてのイメージが薄いなど新鮮味に欠ける同氏に対し、「本当に参院選に勝てる玉か」との懸念が次第に強まっていると言ってよい。
●野中氏が池田大作氏と会談
また野中氏が公明党やその支持団体の創価学会とあまりに近すぎることを危惧する声もある。同氏が今月初め、渡辺恒雄読売新聞社長とともに池田大作名誉会長と会談したという噂が流れているが、これが事実なら野中氏と学会との親密さが改めて証明されたことになる。この席で、学会側が森首相の後継として野中氏を支持し、逆に野中氏が中選挙区復活に努力することを約束したとも言われる。ちなみに野中氏はその数日後には読売の渡辺社長や日本テレビの氏家社長とも会談しており、これらの事実から、読売がこのところ「野中首相」で突っ走っている背景も何となく見えてくる。
●小泉氏は「野中首相、絶対阻止」の構え
古賀誠幹事長らが主張している「総裁選2段階論」はとりあえず「野中暫定」でいくことと同義語。「9月までの暫定政権だから」という理由で党内の理解を得やすいというのが最大の理由だ。これに対し、小泉氏は「野中首相は絶対に阻止する」と、野中氏が総裁選に名を挙げれば、対抗して出馬の構え。野中陣営は「9月には党員による本格的総裁選を実施する」ことで「今回は野中に」との約束を取り付けようと試みている模様だが、今のところ小泉氏は拒否の姿勢。地方への投票権が拡大され、勝機が見えてくれば、小泉氏はあくまで今回も出馬にこだわるものとみられる。
●亀井氏は「野中暫定」で密約成立
一方、政界の風見鶏、亀井静香政調会長は野中氏との間で「2段階論」の密約が成立した模様だ。ただ亀井氏は、今回は野中氏に譲り恩を売る代わりに、野中氏が参院選で負ければ9月は自分がという解釈のようだ。亀井氏としては、小泉氏と加藤紘一元幹事長、山崎拓元政調会長のYKKの3人を分断する狙いもあるとみられる。それにしても仮にこの密約が本当に成立すれば、次の政権は「野中首相、鈴木宗男官房長官、亀井幹事長」という一種すごみのある顔ぶれとなる可能性が高い。この布陣で参院選に勝てると思っているのだろうか。
●「鳩山救国内閣」には民主党内からも批判
一方、野党では、民主党の菅直人幹事長が株価急落に対応して超党派の「救国内閣」(危機管理内閣)を作るとの案を示し、波紋を呼んでいる。鳩山由紀夫民主党代表を首相とした暫定政権で与野党が協力して緊急経済対策を実施し、その後、衆院を解散、参院選とのダブル選挙を目指すという。しかし、こんな野党に都合のいい案に与党が応じるはずもなく、民主党内からさえ「いかにも政治音痴」との批判が出る始末。同党内には「衆院解散までは何もしない。目をつぶっていれば、与党の方で勝手にこけてくれる」との意見もある。参院選をめぐっては遅ればせながら、野党間の選挙協力も進んでおり、ここは有権者に自民党といつでも代われることを示すため、現実的な政策作りに励むのが上策だろう。
【経済政策への影響】
●宮沢発言は挑発の結果
緊急経済対策本部会合での宮沢喜一財務相の「株買い上げ機構への公的資金導入検討」発言が株価の急落に歯止めをかけた。しかし関係者によると、宮沢発言は他の閣僚や財務省当局と事前の打ち合わせは全くなく、野田毅保守党幹事長の「政府はやる気はあるのか」との挑発に乗る形で、宮沢氏が思わず、「財政で面倒を見ることも考えてスキームを作ったらどうか」と答えたというのが真相らしい。この点について自民党の山崎拓元政調会長は「もし嘘だったら大暴落になる。(公金投入は)彼が一番嫌っていたはず。できるのなら、なぜ早くやらなかったということになる」と、宮沢発言の信ぴょう性を危惧している。
●株価1万円割れ、銀行倒産も―政界の反応
株価急落をめぐっては政界でも強い関心を呼んでいる。与党では野田保守党幹事長が「緊急経済対策といっても、自民党税調は(亀井氏と)違うことを言っている。3党でまとめたと言ってもだれも信用しない。株価もこのままでは1万1000円割れだ」との見解。山崎拓氏は「1万円台までいく。1万円を割ったらパニックだ。総裁選どころじゃない」。また、野党では民主党の熊谷弘幹事長代理が「バケツの底が抜けてしまった。米ナスダックの2000割れが大きい。予想より早くきた。米国は8年サイクルだから、今は下降局面。今回は急激に下がる感じ。日本も大銀行は大丈夫らしいが、地銀や信金は危ない」。同党の枝野幸男政調会長代理も「経済は本当に大変な状況だ。株価も8000円になり、都銀も全部潰れるかも知れない」と危機感を募らせている。
[政治アナリスト 北 光一]
2001/03/19
10:08
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