東証平均株価の1万2000円割れで、大手銀行の株式含み損が3兆円を大きく突破する惨状を呈している。一方で、森喜朗首相の「事実上の退陣表明」にもかかわらず、政局は依然混迷が続いており、3月末に向けた当面の対策として、金融政策への期待が大きくなるのは自然な成り行き。19日に開かれる日銀政策委員会・金融政策決定会合では、最もオーソドックスな緩和策である「ゼロ金利政策」への復帰が決まるとの見方が、マスコミの大勢になっているのはこのためだ。ところが、銀行界からは、「ゼロ金利はありがた迷惑。ぜひ踏みとどまって欲しい」という、速水総裁への意外な声援が上がっている。
●マイナスの方が大きい
金融関係者の間に流れるのは、政策に対する完全なあきらめムード。ゼロ金利復帰どころか、長期国債の買い切りオペレーションの増額が実施されたとしても、「株価や景気を刺激する効果はほとんどない」(大手信託銀行)からだ。
そうした中、市場への驚きもない「ゼロ金利復帰」が実施に移された場合、銀行経営が受ける影響は「マイナスの方が大きい」のだという。
無担保コール翌日物金利が、実質ゼロに誘導された際には、まず、生命保険や投資信託など機関投資家が、金利がつかず運用益の出ないコール市場への資金放出をストップさせるのは間違いない。
ただ、そのこと自体で、銀行が困るわけではない。日銀が、日々のオペレーションでじゃぶじゃぶの資金を供給してくれるからだ。むしろ、信用力のない銀行も、比較的優良な銀行と大差ない条件で、十分な資金を調達できるという点で、弱者救済の意味合いがあるのは確か。
●生保から資金がなだれ込み・・・
しかし、都銀などが、ゼロ金利を嫌うのは、そうした市場機能の喪失や、モラル・ハザードへの自戒からではない。
ゼロ金利で運用の旨味を失えば、生保や投信は必ず、巨額の余資を銀行の普通預金口座に移し替えてくる。これに対し銀行は、この預金に年0.05%程度の金利を付けねばならない。しかも、運用先は、企業の資金需要が極めて脆弱なため融資では到底まかないきれず、「換金性の高い短期国債でも買うしか仕方がない」(都銀)。
しかし、短期国債の運用利回りはたかが知れているため、「へたをすると逆ザヤになりかねない」(同)上に、普通預金には残高に応じた預金保険料がかかるため、そのコスト増もばかにならない。
おまけに、ゼロ金利になれば、3月末に約定変更を迎える大量の「短期プライムレート」適用融資で、貸出金利が低下して収益が下振れすることも無視できず、「せめて3月19日は避けてくれないか」というぼやきがもれている。
●株価への影響も期待薄
もちろん、金融政策で株価が持ち直せば、言うことなし。金融緩和を主張するエコノミストの中には、「コンピュータ2000年問題への対応で、資金をじゃぶじゃぶにした1999年末には、現に株価が相当上昇した」という分析も盛んだ。
だが、99年末の株価上昇の実情を知っているのは、むしろ、銀行業の末端の現場の人々。「あの年末は、金融再生委員会に提出した中小企業向け融資の目標値を、何とか達成するのが至上命題だった。支店が抱える親密なオーナー系企業に頼み込み、無理に金を借りてもらった。オーナー連が、その金で一時的に株を買ったため、思わぬ株価上昇となっただけだろう。日銀の資金供給とは、あんまり関係ないんじゃないの」(ある銀行マン)というわけだ。
八方ふさがりの政策に、銀行界のしらけムードは、当面続きそうだ。
■URL
・日銀
http://www.boj.or.jp/
・今度は財務省と喧嘩?~波紋呼ぶ日銀総裁の円安誘導発言
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/08/doc2226.htm
(小倉豊)
2001/03/15
09:49
|