緊急経済対策に続き森喜朗首相の「4月退陣」が事実上確定、株式市場が注目していた森政権の2大懸案に結論が出た。が、株価回復を狙った緊急経済対策の実効性は、肝心のリーダーシップの欠如で期待薄。一方で「死に体」の首相が4月中旬まで居座ることが確定、米ナスダック指数急落ともあいまって、12日の東京市場は全面安となり、平均株価は昨年来安値を更新、13日にはあっさり1万2000円も割り込んだ。株価対策も首相の「退陣」確定も材料視されなかったわけだが、実は12日の株安には新たなリスクが影響していた。そのリスクとは?
●柳沢金融担当相の辞任で歯車が逆回転か
森首相の辞任については、新聞やテレビの「前打ち」で既成事実化していたことで、株式市場では織り込みずみだった。
しかし、首相の退陣が濃厚となった時点で、株安の誘因として急浮上してきたのが、不良債権の最終処理(直接償却)を金融機関に強く促してきた柳沢金融担当相の退任。森内閣が総辞職すれば、派閥の力学などから柳沢氏も閣外に去り構造改革にブレーキがかかる、と市場関係者は懸念する。
こうした懸念を裏打ちしているのが、9日に発表された緊急経済対策。この中に「金融検査の弾力化」という項目が盛り込まれ、政府に対し「金融検査に当たっては、金融機関の果たすべきそれぞれの役割に鑑み、特に、協同組合組織金融機関(信用金庫、信用組合)については、実状を考慮した緩急あわせた実施・運用」を求めている。
この文言に関しては、「越智元金融担当相が退任に追い込まれた『手心発言』と何ら変わりがない」と極端に嫌気する市場関係者が多い。「森内閣の総辞職とともに、新内閣では再び越智美智雄氏や相沢英之氏のような旧態依然とした人物が金融担当相のポストに就く可能性がある」(外資系証券)ためで、「未だに政治家が危機感のない主張をごり押ししようとしている」(準大手証券)と、市場関係者には映った。
●「はしごを外される」と大手銀
大手銀行関係者も柳沢金融担当相の退任リスクに怯えている。森内閣の退陣で同相も退任、“越智・相沢型”の人物が職責に就くことになれば、「直接償却」シフトで行内調整を行ってきた今期決算が重大な影響を受けるためだ。
「直接償却という形で政治サイドのハラが座ったのであれば、思い切った決算をやることはやぶさかではない」(大手銀関係者)とみていた向きも、森首相退陣がほぼ確定したことで、「うかつには動けない」(同)との慎重姿勢に転じた。「赤字決算など思い切った措置を打ち出しても、柳沢氏以外の政治家は信用できず、はしごを外されるかもしれない」ことへの懸念からだ。
こうした大手銀行の“気迷い”を、株式市場は早くも見透かしている。前週にかけて日本の構造改革を先取りする形で銀行株に買いを入れていた一部の海外機関投資家が「柳沢退任リスクと緊急経済対策の中の文言に嫌気して、銀行株に売りを出した」(欧州系証券)もようだ。
●瀬踏み始めた市場
柳沢氏が打ち出した「直接償却」の方針、これをサポートする日銀の「更なる金融緩和」は、もはや国際公約化している。海外機関投資家による「売り」は、公約実現を迫る瀬踏みとも言える。換言すれば、森内閣が退陣しても、構造改革という既定路線は大丈夫だろうな、と強く求めていると受け取れる。
前週末9日に米格付会社のスタンダード・アンド・プアーズ社は、中央三井信託銀行の長期信用格付を「BBB-(マイナス)」から投機的等級である「BB+(プラス)」に格下げしたほか、12日にはムーディーズ・インベスターズ・サービスが東京生命を「B3」から「Caa1」に引き下げるなど、日本の金融問題は時価会計が本格導入される2001年9月中間期に向け、一層緊迫度を増しているのは間違いない。
永田町の論理で森首相退陣の布石が打たれ、後継首相が決まるのは確実な情勢だ。が、次期政権のリーダーが、金融担当相人事で人繰りを誤る、つまり順送り的な人事で旧態依然とした閣僚を任命した場合は、「国際公約が反故にされた」として内外市場関係者の反発を食らうのは必至だろう。
■URL
・構造改革に関心寄せる欧州投資家~ロンドン発が市場の“台風の目”に
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/07/doc2204.htm
・譲渡益課税の軽減など証券対策柱に~与党3党が緊急経済対策
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/09/doc2242.htm
・株式市場は「亀井売り」の様相に~相場の足を引っ張る自民政調会長
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/02/doc2160.htm
(相場英雄)
2001/03/13
11:16
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