「政局」が日本経済の不透明要因になっている、と永田町を暗に批判した日銀の速水優総裁が、今度は「円安誘導」発言で財務省の神経を逆なでし、波紋を呼んでいる。円・ドル相場は、宮沢喜一財務相の否定発言などでとりあえず落ち着きを取り戻したものの、直後のロンドン市場では99年7月以来の120円台に突入。市場関係者は、財務省に喧嘩を売ったとしか思えない総裁発言の真意を図りかねている。
●デフレの責任を転嫁
問題の発言は、7日の都内での講演で飛び出した。講演のテーマは、「最近の金融経済情勢と金融政策」。この中で速水総裁は、ゼロ金利政策の復活など量的緩和の是非について論じた後、唐突に「思い切った政策をトライするという意味では、『為替相場を介入により大幅な円安に誘導する』という政策も考えられます」と切り出した。
同総裁は、為替市場への介入の効力や、輸入コストの上昇、アジア諸国へのマイナスの影響などの問題点も指摘。表面上は円安誘導政策について中立的な表現にとどめている。が、これまで「頑固な円高至上主義者」とみられてきた総裁の発言だけに、市場は「一瞬、狐につままれたような状態に陥った」(市場関係者)という。
速水総裁のこの発言は、わざわざ財務省の権限である外国為替市場への介入に言及している点に最大の特徴がある。
為替市場を「介入により」大幅な円安に誘導すると断っているので、「デフレの責任は日銀だけでなく、通貨を所管する財務省にもあるのですよ」と指摘しているに等しいからだ。市場筋によると、財務省は即座に、日銀に不快感を表明したとウワサされているが、それも当然のことだろう。
●ゼロ金利復帰への布石か
昨年8月のゼロ金利解除以来、速水総裁はことあるごとに政府・与党の攻撃にさらされてきた。なかでも財務省は、一部OBが執拗に日銀総裁の責任論を繰り返し指摘。総裁がこうした責任追及の動きを知らないはずはない。
このため市場では、この先、ゼロ金利に復帰した場合、「一方的に景気後退の責任をなすりつけられないよう、先手を打ったのではないか」との見方すら出ている。円安誘導と併せて、構造改革の必要性をしきりに強調していることも、政府・与党への責任転嫁の一環と考えれば、とても理解しやすい。
速水総裁は、問題の円安誘導発言の後、「ゼロ金利政策といった、通常は行われないような政策にあえて踏み込むべきかどうかは、それらを必要とするような経済や物価の情勢にあるかどうかという判断が大前提となります」と述べ、ゼロ金利への復帰に含みを残している。
早ければ19日の金融政策決定会合で、ゼロ金利政策の復活が決まるのではとの観測が流れるなか、あえて財務省の「庭先に土足で踏み込んだ」ような速水総裁のやり方に、財務省の反発がさらに強まる可能性もある。
■URL
・情勢次第でゼロ金利復活も~講演で日銀総裁
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/07/doc2211.htm
・政府・与党に“ケンカ”を売った日銀~総裁会見発言の隠れたポイント
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/01/doc2147.htm
・総裁ダブル退陣論が浮上~日銀総裁にも早期辞任促す声
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/15/doc2000.htm
(舩橋桂馬)
2001/03/08
16:31
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