FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~政局で見過ごされている日銀総裁更迭論

  【今週の主な政治日程】
  ▼5日(月) 内閣不信任決議案採決(衆院本会議)
  ▼6日(火) 2001年度予算案が参院で審議入り

  【政局の焦点】
  ●野中氏自身にもためらい
  政局は、森喜朗首相がどの時点で退陣表明するかに絞られてきた。これまでお伝えしてきた通り、13日の自民党大会までに首相が何らかの辞意表明しようとの基本的流れは変わっていない。後継候補についても、野中広務前幹事長が依然最有力。ただ同氏の名前が早く出過ぎたため、「野中氏では参院選は戦えない」とする意見が与党内のあちこちで台頭しており、同氏自身もこれまでの陰の存在から表に出ることへのためらいや迷いが生じているのは事実のようだ。しかし、それでもなお現状では同氏が最有力候補との見方が変化するには至っていない。

  ●首相の強気を助長する野党の乱れ
  それにしても森首相の強気ぶりは相当なもので、側近も「本人は全く辞める気はない。当然、参院選は自分で戦って勝つつもり」とあきれはてているほど。その強気の原因は第1に、後継が一本化されていないこと。前述した通り野中氏が最有力とはいうものの、橋本派の中も必ずしも野中氏で固まっているわけではない。第2に、森降ろしと後継選びでの橋本派と公明党主導に対し、他派閥から反発する空気が強いこと。第3に、攻める側の野党が内閣不信任案の提出をめぐって迷走するなど足並みが乱れていること、などが挙げられる。

  ●4月5日ごろ退陣か
  しかしその強気も、首相が続投の最大の理由に挙げていた来年度予算案の年度内成立が確定したことで微妙に変化してきている。友党の公明、保守両党からも繰り返し首相の退陣を求める声が上がり、内閣支持率が10%を割り込み、日経平均株価がバブル崩壊後の最安値を日々更新していることも首相の気持ちを揺さぶっている大きな原因だ。仮にこのまま首相が何の意思表示もしないまま党大会を迎えた場合、大会当日、若手議員や地方代議員が造反するなどの混乱も予想され、さらに参院選候補者から公認辞退が出てくる恐れもある。このため首相が13日までに退陣表明をした上で、25日の日ロ首脳会談が事実上の花道となる可能性が強いとみられる。実際には予算が成立し、森内閣が満1周年を迎える4月5日ごろに退陣となる公算が大きい。

  ●「野中氏以外」という波乱も
  後継については野中氏最有力の線は変わらないものの、「野中では戦えない。公明党議員は全員、小泉純一郎と思っている」(同党中堅)、「時計の針を逆に回すべきではない」(自民党筋)などの声が出ていることは同氏にとって気になるところ。当の本人は目下、「(森降ろしの)環境整備に務めている」といい、最終的には後継候補を引き受けるとみられる。しかし、野中氏に代わったところで参院選で自民党が勝てない見通しに変わりはなく、後継選びが混乱した末に野中氏以外が選ばれる可能性がが全くないとは言い切れない。

  ●外務省元室長の逮捕は先送りか
  外務省の機密費流用事件で懲戒免職となり、警視庁に告発された松尾克俊・元室長が依然逮捕されていない。100人規模で同事件の捜査に当たっているものの、機密費の性格上、領収書がほとんど残っておらず、金の流れの把握が困難を極めているとみられる。何とか4月中の逮捕、起訴が期待されているが、場合によっては長期化することも予想される。また外務省としては、松尾元室長の起訴で一件落着させたい意向だが、責任を取るべき河野洋平外相が内閣総辞職で辞任する可能性も高まっており、その場合、川島裕事務次官の去就が焦点となる。いずれにしても同省は同事件などで大きな打撃を受けており、早くけじめをつけて通常の外交政策遂行に復帰することが期待される。

  【経済政策への影響】
  ●森、宮沢、速水氏ら5人が“戦犯”
  一方、政局の混迷は景気回復にも大きな影を投げ掛けている。日経平均株価は2日、1万2261円80銭とバブル崩壊後の最安値を抜け、約15年ぶりの低水準を記録した。この背景には米ナスダックとニューヨーク株式市場の株価下落の影響を受けていることは間違いないが、さりとて森首相をはじめ日本の指導者のリーダーシップのなさ、判断ミスも見逃せない。

  現在の景気低迷の“戦犯”を上げれば、森首相、宮沢喜一財務相、速水優日銀総裁、亀井静香政調会長、堺屋太一前経企庁長官の5人だろう。森首相の罪は言わずもがなだが、あえて指摘すれば、総理大臣は日本という国家と国民の平和と安寧を24時間考えるべき職責があり、通常言われるところの「私」はないということである。付け加えれば国民に夢や希望、目標を与えるのも重要な仕事だ。一部に「森首相は何の失政もしていない」(小泉純一郎氏)などと、脳天気に首相を擁護する向きもあるが、失政どころか、そもそも何の定見もない人がこういう重要ポストに就いたのが間違い。一刻も早く辞任することが日本(経済)のためだろう。

  ●政局で見過ごされている日銀総裁更迭論
  2番目の宮沢氏は、バブル経済を引き起こした張本人のひとりでありながら、何の反省もなく再び蔵相(財務相)として出てきたこと。景気低迷は他人のせいと言わんばかりの記者会見を続ける同相も1日も早い辞任が望まれる。

  宮沢氏と並んで老醜をさらしているのが速水日銀総裁。首相周辺などにも「ゼロ金利政策を止めることは市場に間違ったメッセージを与えると反対したのだが。結果として我々の方が正しかった」と批判の声が上がっているが、幸か不幸か政界は首相退陣論一色のため、速水氏に対する辞任圧力は高まっていない。また、本人に辞めなさいと鈴を付ける人がいないのも森首相や宮沢財政相とそっくり。逆に言えば、この3人が辞めない限り日本の景気は良くならないということだろう。

  ●次期日銀総裁狙う?堺屋氏
  亀井氏はできもしないいい加減なことを言いふらし、マーケットの信用をなくしている“オオカミ老年”。今でも「あっと驚く経済対策を打ち出す」と吹聴しているが、自分の地位を守るための森首相擁護論は聞くだに見苦しい。もっとも検察は既に「村上(正邦元労相)の次は亀井」とターゲットを絞りつつあるといわれ、亀井氏にとってポスト森を狙うというより、現職を守るのが最優先という事情もあるようだ。堺屋氏も「日本の景気は回復基調にある」と、経済見通しを完全に間違った罪は大きい。実現は不可能と見てさっさと内閣から逃げ出したが、次の日銀総裁を狙っているとの見方もある。

  [政治アナリスト 北 光一]


2001/03/05 09:42