非営利の会員組織である東京証券取引所が、株式会社化に向けた作業を急いでいる。株式会社化に存亡をかける大阪証券取引所と異なり、東証は「差し迫って株式会社化する理由は見当たらない」(証券業界関係者)。にもかかわらず、この計画を推進したのは「在任中の功績を残したかったという、いかにも役人的な山口光秀前東証理事長(現顧問)の思惑から」(同)だと言われている。
●中国企業誘致の失敗で急浮上
東証は、株式会社化の理由として「現行の会員組織に比べ意思決定が迅速になる」「資金調達が容易になる」などを挙げている。これに対しては、「むしろ株式会社の方が、大株主の反対で意思決定ができないケースもある」(中堅証券幹部)などの反論が聞かれる。
収支均衡予算を組めばいい会員組織なら、資金調達を心配する必要もない。
「株式会社化」が東証幹部の口にのぼるようになったのは、山口氏が理事長だった1998年当時からで、その背景には「中国企業の上場誘致失敗があった」(関係者)という。
当時、東証は停滞著しい「外国部」を活性化する狙いで、中国の自動車メーカー「天津汽車」の上場誘致に動いていた。これが、山口氏の功績の「目玉」になるはずだったが、「中国国内の経済事情悪化で」挫折。代わりに浮上したのが、株式会社化構想だった。
●厳しい収支見通し
東証の収入源は、証券会社が支払う会費と上場企業からの上場賦課金が柱。前年度総収入379億円のうち、6割程度を両収入源が占める。
しかし、株式会社化後は「利益捻出が求められ、こうした収入だけでは足りなくなる」(関係者)ことが確実。東証が計画している人員削減などのリストラではコスト削減効果に限界がある。
上場企業や投資家から新たな利用料を徴収する案もあるが、株取引が東証に集中する中での安易な課金は「独占企業の横暴」との批判を招きかねない。また、東証は建物、土地ともに借り物で、これという担保資産を持たない。
これだけ不安材料があるにもかかわらず、株式会社化を進めるのは「今さら中止すると、役員全員の責任問題にもなりかねない」(関係者)から。引くに引けない状況の中、前理事長の置き土産が重くのしかかる。
■URL
・東京証券取引所
http://www.tse.or.jp/
・自主規制機能が弱体化~東証労組、「株式会社化」で質問状
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/31/doc877.htm
・夜間市場開設を断念~東証、“守旧派”に敗れる
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/20/doc1086.htm
(小城高雄)
2001/03/02
09:57
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