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Lモード認可めぐりNTT、NHKが“共闘”~不明を露呈する総務省IT2局

  NTT(9432)とNHK―。通信と放送それぞれの市場を支配する「2つのN」が、共通の悲願である業務領域の拡大を目指し、密かに連携しつつある。NTT東日本・西日本は、長距離・国際通信への進出に道を開く新サービス「Lモード」の認可をめぐり、新電電や外資系通信事業者と対立しているが、その東西NTTを背後から応援しているのがNHKだ。

  NHKは「『NTT法』の欠陥が、消費者が望むサービスを阻んでいる」と繰り返し報道、その論調は、NHKの通信事業進出を禁じている「放送法」の批判にそのまま当てはまる。「2つのN」の連携は、戦後半世紀にわたって旧郵政省(総務省)に規制されてきた両者の、いわば“怨念の共同戦線”といえ、Lモード問題は通信と放送の融合の是非にまで発展する可能性がある。そのコトの重大さに総務省IT部局は、いまだ気付いていない。

  ●あらゆる手段で阻止
  「NHKのコンテンツを、Lモードに載せてはどうですか」―。関係筋によると、NHKとNTT東日本の幹部の間では、年明け前後からこうした遣り取りが交わされている。既に非公式な懇親の場で、それぞれの業務領域の拡大に協力し合うことを確認したという情報もあり、とりわけ、肥大化批判に晒されているNHKにとってLモード問題は、自らの事業多角化に向けた世論づくりを陰で行う恰好の材料だ。

  Lモードは、液晶ディスプレー付きの固定電話端末からインターネットに接続し、情報を検索できる固定電話版のiモード。家庭で銀行振り込みや通信販売も可能となり、東西NTTは今春のサービス開始を計画していた。しかし、インターネット網に接続するゲートウエイ(関門交換機)は、東日本が東京に1カ所、西日本が大阪に1カ所しかなく、全国の家庭からゲートウエイまでのトラフィックは県間をまたがる「長距離通信」に当たる。

  ところが、東西NTTは「NTT法」で業務領域を県内の地域通信に限定されており、新電電や外資系通信事業者が反発。これを受け、東西NTTは県間部分を、NTT-PCとインターネット・イニシアティブ・ジャパン(IIJ)のプロバイダー2社の回線に接続して提供する形に改めたが、情報通信審議会(総務相の諮問機関)・電気通信事業部会は「公正競争上問題がある。プロバイダーやコンテンツの独占にもつながりかねない」(斎藤忠夫部会長=東大教授)として即時認可を退けた。

  KDDIの奥村雄材社長に至っては「あらゆる手段を用いて阻止する」と、行政訴訟も辞さない構えだ。東西NTTのひとつのサービスに対し、これほど反発が強いことには理由がある。

  ●宙に浮く新サービス
  情報通信審議会のある委員は「Lモードほど人を愚弄するものはない」と、憤りを露わにした。「今や長距離回線や国際回線は有り余っている。Lモードを認めてしまえば、東西NTTが相互接続によって長距離・国際通信へ出て行くのは必至。昨年末、電気通信審議会(現情報通信審議会)が答申した、NTTグループの資本関係の緩和を条件に、東西NTTの業務領域拡大を認めるインセンティブ規制の導入を無視するものだ」という。Lモードが東西NTTの策略であることは明らか。しかし、世論はどうか・・・。

  「宙に浮く新サービス」―。2月8日朝のNHKニュースは、皮肉を込めた表題で「消費者の望むサービスが制度の不備で遅れるのは納得できない」と報じた。実際、Lモードはパソコンを操作できない高齢者や身体障害者を中心にニーズが高く、自民党・郵政族議員も「デジタルデバイド(情報格差)の解消に役立つ」と“選挙民受け”も狙って好意的だ。NHK以外のマスメディアの多くもLモードを否定はしていない。

  さらに事態を複雑にしているのは、昨年4月の段階で、当時の郵政省の担当官がLモードの認可方針を口頭で伝えてしまっていることだ。この言質を得て準備を進めてきた東西NTTは「サービス開始が遅れれば、開発を委託した電話端末メーカーやコンテンツ提供会社への違約金は100億円を超える」と、総務省のIT部局に揺さぶりをかけている。

  ●「付帯業務」として容認
  その苦し紛れか、IT部局のある幹部はこう本音を洩らす。「『NTT法』には、東西NTTが(地域・長距離・国際をまたぐ)一気通貫のエンド・ツー・エンド料金をつくってはいけない、とは1行も書いてない」。意味するところは、「NTT法」を改正しなくても、“法解釈”でLモードを認可できるということであり、それは、1999年7月のNTT再編の大前提を根底から覆すことになる。

  ここで思い出されるのは昨年末、NHKが自社のホームページを通じ、テレビ・ラジオで放送したニュースをネットで配信し始めたことだ。NHKはその設置法である「放送法」の第9条によって業務領域を厳格に定められており、受信料収入で事業化できるのは地上波放送、BS(放送衛星)放送、国際放送だけ。動画を含むニュースをインターネットで流せば、それは業務領域を超えた通信事業に限りなく近くなる。

  しかし、当時の郵政省はこの時も、インターネットによるニュース配信は番組の2次利用に過ぎず、「放送法」も認める「付帯業務」に当たると“法解釈”して容認した。NHKは本格的な通信参入につながる次期CS(通信衛星)デジタル放送への認可申請は、さすがに肥大化批判の大合唱を受けて断念せざるを得なかったが、民放各社は「NHKは放送用に使っている余剰回線の再販や、広くインターネットプロバイダーへの情報提供を画策している。しかも、怖いのはNHKの充実したコンテンツに対するニーズが高いことだ」と警戒する。

  ●局が違えば・・・
  世論の声を背景に、「放送法」を改正せずに業務領域を拡大しようという意図は、東西NTTのLモードと見事に一致する。そして、通信と放送それぞれのドミナント(市場支配的事業者)である「2つのN」が連携した時、確実に招来されるのはIT関連市場の独占だ。

  総務省のIT部局は、その本質に気付いていないといえる。通信は総合通信基盤局、放送は情報通信政策局が所管しており、「局が違えば他人」の役所では気付くはずもない。旧郵政省に半世紀にわたって手足を縛られてきた「2つのN」の方が役者は上といえる。

  ある外資系通信事業者の幹部は、Lモードの擁護に回るマスコミ、政治家、旧郵政官僚を辛辣(しんらつ)に揶揄する。「脳みそのシワが1本足りないマスコミは、NHKの肥大化に気付かない。2本足りない政治家はNTTとNHKに対する権限低下に気付かない。3本足りない旧郵政官僚は自分たちの職場がなくなることに気付いていない」―と。Lモードが認可されれば、総務省IT部局の解体、独立規制機関化を求める外圧が高まるのは必至。その糸口ともなる日米規制緩和協議はきょう1日、総務省で実務者協議がスタートする。

■URL
・NTT
http://www.ntt.co.jp/
・NHK
http://www.nhk.or.jp/
・“電気通信2法”の改正にドコモが猛反発~総務省、身内の反撃で混乱
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/16/doc2018.htm

(立花遼)
2001/03/02 10:58