情報は時とともに劣化する・・・
【1面トップ】
●「金融緩和」に舵切った日銀
日銀は2月9日の政策委員会・政策決定会合で、短期資金を公定歩合で貸し出す「ロンバート型貸出制度」を公定歩合の0.15%引き下げとセットで打ち出し、短期国債の買い切りオペレーション(公開市場操作)、さらには手形買いオペの拡充と「流動性を市場に供給するルートを3つも増やした」(速水優総裁)。にもかかわらず、市場は日銀のこの電撃的な発表に冷ややかに反応。
その後、事業会社の取締役にあたる日銀の審議委員の中からも追加的な金融緩和の可能性を示唆する発言も飛び出したが、政策判断の材料となる景気分析について日銀は、鈍化の強まりをにじませながらも「緩やかな回復が続いている」との見方を変えようとはしなかった。
が、日銀が「景気回復の柱とみていた企業部門」(朝日)の生産活動の大幅な低下が、28日発表された1月の鉱工業生産動向速報で確認され、平均株価もバブル崩壊後最安値を更新。同日の金融政策会合は、実体経済の深刻さが一段と浮き彫りになった中で開催された。
「認識が甘い」。読売によると、日銀執行部が景気の現状を説明した際、審議委員の間からこんな声が相次いだという。この報道が事実なら、日銀執行部の3委員(総裁+2副総裁)にほぼ「右へ倣え」してきた中立委員の姿勢に微妙な変化が出てきたことになる。
閑話休題。この日の会合の結果を最初に報じたのはNHKだった。午後4時10分頃にテロップで流れた決定内容は、短期金利(コール翌日物)、公定歩合ともに0.1%引き下げ。正式発表は4時20分だった。
きょうの朝刊も全紙、1面トップでこのニュースを報道。金融機関向けの新型融資制度である「ロンバート型貸し出し」の基準貸付利率としての意味合いしかなくなった公定歩合中心の見出しと記事(リード部分)は産経だけで、他紙は短期金利の引き下げをメーンに据えた。
金融政策運営の「主役」である短期金利の引き下げが意味するものは、紛れもなく「ゼロ金利解除」以来の政策転換である。しかも、たった3週間で2度も公定歩合が引き下げられた。その背景にあるのは、株安とデフレへの警戒感だ。
「デフレの一歩手前で金融システムの崩壊が目に見えていたゼロ金利の導入時とは全く違う」
短期金利の下げ幅を0.1%にとどめたことについて、速水優総裁はこう説明している。が、下げ止まらぬ物価動向について総裁は、「デフレスパイラルになる可能性がある」とも指摘。この総裁発言からも分かるように、「日銀の『景気回復シナリオ』はもろくも崩れ去ったことになる」(読売)。
この小刻みな利下げが効果を発揮しないとなると、金融政策の次なるシナリオは? 「ゼロ金利の復活に加え、長期国債の買い切りオペ増額による量的緩和の実施など、段階的な緩和策が現実味を帯びてきた」と、毎日が報じている。
気になる市場の反応はどうか。きょうの東京株式市場は、続落で幕を開けた。
【経済・IT】
●浮上する「総裁責任論」
緊急利下げの決定を受けたきょうの紙面で速水日銀総裁の責任論を展開しているのは毎日と産経の2紙。
毎日は、昨年8月のゼロ金利解除の際に描いた景気見通しの甘さに、自民党から「総裁の責任を問う声が出ており、今後それが高まることになりそうだ」と報道。産経は、景気認識の甘さに加え、「『月に2度』の利下げでも実績を示せなければ速水総裁の責任問題に飛び火しかねない」と報じている。
◇緊急利下げを巡る各紙社説は、総じて日銀に厳しい。ゼロ金利の復活など量的緩和策の選択については見方が分かれているが、ほぼ共通しているのが金融政策だけでは景気を下支えできないという点。追加的な金融緩和は「不良債権の最終処理とセット」で行うべきだという主張だ。
が、不良債権の最終処理を断行するためには、統治能力を有する強固な政権基盤が必要。「死に体」の森政権のもとで「血を流す改革」が可能と見る向きは少ない。主張していることは正しいが、方法論を欠いた「経済再生のシナリオ」の提案は絵に描いた餅に過ぎない。社説を眺めながら、隔靴掻痒の思いを抱いているのは筆者だけではないだろう。
【トピック】
●あ~あ、情けねえ
「予算委員会をパス」し、大阪市内で開かれたIOC(国際オリンピック委員会)評価委員会の歓迎パーティーに主席した森喜朗首相。挨拶でこんなジョークを放ち、場を盛り上げようとした。
が、続いて挨拶したフェルブルッゲン評価委員長も、「私が総理なら大事な予算を他人に任せてきたかどうか」とキツいジョークで応戦。あ~あ、情けねえ。
[メディア批評家 増山広朗]
■URL
・瓦版一気読み バックナンバー 3月
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm
2001/03/01
09:39
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