自民党の金融調査会・財務金融部会の合同会議は、先週の会合で、生命保険会社が契約者に約束している予定利率の引き下げ問題の検討などを念頭に、保険問題小委員会の発足に向け委員の人選を固めた。下火になったかに見える予定利率引き下げ論議が、政界では根強く残っており、生保の苦境を図らずも示した形だ。しかし、相次ぐ破綻の原因が、本当に運用環境の悪化に伴う「逆ザヤ問題」なのか、当局内部からさえ疑問の声が上がっているのが実情なのだが・・・
●見えない利益構造
「経営の健全性を見る上で、ひとつの大事な要素だ」―。生保業界最大手・日本生命保険の宇野郁夫社長は、生命保険協会長としての記者会見で、金融庁が生保各社に公表を義務付けた「基礎利益」という新指標を評価してみせた。しかし、この発言を聞いた中堅生保のある幹部は「本音は嫌で嫌で仕方がないはず。本当の儲けが分かってしまうから」と渋い表情だ。
基礎利益とは、経常利益から有価証券含み益や為替差益を差し引いた数値で、フローで見た収益を示す。つまり、保険本業での「儲け」を表す数値だ。銀行の業務純益に当るもので、契約者に公表して当然なのだが、ほとんどの生保が対外公表しない“極秘の数字”なのだ。
生保の収益は、死亡率を実際より高めに見積もることで保険金支払いが抑制できる「死差益」、保険募集と管理に必要な経費を節減することで生じる「費差益」、資産の運用利回りが契約者に保証した利回り(予定利率)を上回ることで得られる「利差益」を合計した、いわゆる「3利源」によって支えられている。大ざっぱに言って、3利源の合計が基礎利益である。
現在の超低金利下では運用利回りが極端に低く、生保の「利差益」は「利差損」に転落している。つまり逆ザヤに陥っている。
一般的には、逆ザヤの拡大が生保経営を圧迫し、昨年1年間だけで第百生命保険、大正生命保険、千代田生命保険、協栄生命保険の4社が経営破綻する未曾有の生保パニックを引き起こしたと説明されている。したがって、生保を蝕む逆ザヤ解消の切り札として、予定利率の引き下げがクローズアップされたわけだ。
●「死差益」は生保のヘソクリ
しかし、基礎収益を公表すると、逆ザヤに苦しんでいるはずの生保が、実はそれを補って余りある利益を得ている実態が白日の下にさらされる形となる。
ある金融当局者は、「生保業界全体では、逆ザヤ(利差損)が1.5兆円。これを費差益1.5兆円で埋めており、死差益2.5兆円がまるまる利益になる構造になっている」と打ち明ける。このため、業界内には「基礎収益を公表すると契約者から『儲かっているなら保険料を下げろ』と迫られる」と心配する声がある。
そうなると、逆ザヤ解消を狙った予定利率引き下げは、生保の“まる儲け”につながるだけで、契約者は反論する術(すべ)もないまま、受け取る保険金の減額を強要されるという、とんでもない話になる。
昨年11月に盛り上がった予定利率引き下げ論議が年末に沈静化したのは、大手生保が、相次ぐ破綻による生保不信を大義名分に、予定利率引き下げで一気に経営改善を狙おうと“永田町行脚”を展開したのに対し、金融当局が「3利源の実態を公表するぞ」と立ちはだかったからだ。この問題を持ち出されると、生保は沈黙に逃げ込むしかないのが実態なのである。
もちろん、体力のない中堅・中小生保にとって、逆ザヤが重い負担であることは否定できない。こうした個別生保の経営問題に対応して、どのような改善策を打ち出すかは今後の焦点で、首相などの諮問機関である金融審議会の議論がスタートしたばかりだ。
だが、生保不信を完全に払拭しようと思うなら、業界ぐるみで隠し続けてきた収益構造を契約者にさらけ出すことが先決だろう。
■URL
・生命保険協会
http://www.seiho.or.jp/
・金融庁
http://www.fsa.go.jp/
・2000年保険業界回顧~業態超えた「総合保険化」の流れが加速
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/28/doc1570.htm
・激突!大手生保vs.金融庁~予定利率引き下げの行方
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/15/doc1049.htm
(小倉豊)
2001/02/27
11:46
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