イタリアのパレルモで17日（現地時間）開かれたG7（先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議）で採択された共同声明は、日本経済の先行きに対する各国の見方が、予想以上に厳しいことを裏付けるとともに、一層の金融緩和を求められるという異例の結果となった。日銀がG7への“おみやげ”として持参した公定歩合の引き下げとロンバート型貸出制度の導入は、共同声明では言及すらされず、帰国後の速水優総裁は、これまで以上に厳しい批判にさらされることになりそうだ。

　 ●都合よく意訳？
　 日本経済について、共同声明は3つの文章で言及している。まず、最初のセンテンスでは、日本のマクロ経済について「In Japan, while a modest recovery is expected, price continue to decline and downside risks remain.」と表現。日本側が用意した仮訳では、これを「日本では、景気の緩やかな回復が期待されるが、物価の下落が続き、下方リスクは残っている」と翻訳している。

　 この訳では、かなり穏やかな表現になっているが、要するに「景気回復を期待していたものの、未だに実現されていない」と皮肉っているに過ぎない。「穏やかな景気回復が続いている」という日本政府の公式の景気認識を、完全に否定していると理解すべきだろう。

　 さらに2番目の文章で、「In this context, momentary policy should continue to ensure that liquidity is provided in ample terms.」と日本の金融政策に言及。仮訳は、「この観点から、金融政策は、潤沢な流動性供給を引き続き確保するべきである」となっている。

　 これを誤訳だと断じるつもりはないが、「引き続き確保するべきである」という翻訳では「現在の流動性供給を続けるべき」という現状肯定的なニュアンスが強くなる。

　 英文を素直に「潤沢な流動性供給の確保を続けるべきである」と訳した場合、仮訳の現状肯定的な語感は消えて、むしろ読みようによっては昨年8月のゼロ金利政策の解除を暗に批判しているようにもとれる表現となる。

　 このように、共同声明の1番目と2番目の文章を通して読むと、日本に対してより一層の金融緩和を求めているようにしか読めないのである。

　 共同声明が日本について言及した最後のセンテンス「金融セクターを更に強化する努力が拡充されるべきである」については、英文にあたる必要すらない。この仮訳でも、現在の日本の努力が不足しているとのG7各国の認識が、しっかりと伝わってくる。

　 ●黙殺された“おみやげ”
　 そして、指摘するまでもないことだが、速水総裁が用意した公定歩合の引き下げとロンバート型貸出制度の導入という“おみやげ”については、一切触れられていない。こうした小手先の対応を誇る暇があるのなら、さっさと量的緩和やゼロ金利政策の復活に踏み切れというのが、共同声明の行間ににじむ各国の本音なのだろう。

　 ロンバート型貸出制度の導入を発表した直後、日銀はこれで金融システム不安は沈静化できるとの自信を示していた。また、金融界内部でも、もしこの制度があれば、北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行は、破たんせずに済んだと評価する声すら聞かれた。

　 しかし、仮にこうした見方が正しかったとしても、それは日銀が金融恐慌的な騒ぎの中ですら、なすべきこと、つまりロンバート型貸出制度を導入していなかったという、サボタージュの証明にしかならない。

　 15日配信の「総裁ダブル退陣論が浮上」でも指摘したように、日銀が天下り先の確保などの権限維持のために、こうしたオンデマンド型の融資制度の創設を渋っていたとしたら、連鎖的な金融破綻の「A級戦犯」は日銀自身だったということになる。

　 ロンバート型貸出制度の創設が、自民党に株価対策を求められて初めて実現したのは何故なのか、この疑問にきちんと答える説明責任が日銀と速水総裁にはあるはずだ。