国際的な影響力が減退、もはやかつてのような輝きを失ったヘッジファンド。だが、年度末を目前にしての日本の生命保険会社からの“特需”が、彼らに新たなビジネスチャンスを与えようとしている。例年、年末や年度末には決算対策として、日本の金融機関がヘッジファンドに大口の投資依頼を行うケースが多いが、今年はケタ違いに大きい案件が見込めるためだ。
●再起に血眼のヘッジファンド
ジョージ・ソロス氏、ジュリアン・ロバートソン。1990年代に国際金融市場をかき回した大手ヘッジファンドの主催者だ。
彼らが運営していたクオンタム・ファンド、タイガー・ファンドの大型ファンドは、超富裕層や金融機関から出資を募り、世界中の金融市場を舞台に投資を繰り返してきた。デリバティブ(金融派生商品)を駆使して、投資資金を手元資本額の数倍から数十倍に膨らませ、1992年には英国の通貨政策を破綻させ、1997年はタイやインドネシア、韓国の国家財政を混乱に陥れるほどその影響力は強かった。
しかし、昨年の米ITバブル相場への投資に乗り遅れ、バブルの崩壊とともにクオンタム、タイガーはファンド閉鎖に追い込まれた。
現在、目立った活動をしているのは、ムーアやチューダーなどかつての準大手以下のクラス。米国経済の減速傾向の強まりとともに、他の先進国やエマージング(新興国)経済も調整色を強めている中、生き残ったファンド勢も「どこでどう儲けるか」に躍起になっている。
現在、彼らが熱い視線を向けているのが日本だ。
●1件3,000億円の超大型案件
1月25日深夜、時事通信社が<金融庁、生保のソルベンシー比率を変更、国内債券や外国債・株を新たに算入>とのスクープを報じた。生保会社の経営の健全性を示すソルベンシーマージン(保険金支払い余力)比率について、基準の厳格化を検討していた同庁が、従来算出に用いていなかった国内債券、外国債・株式、非上場株式を新たに加える方針を決めたという内容だ。
超低金利時代の長期化で生保各社は運用難に直面、投資資産の何割かは海外に向かったが、「運用に事実上失敗し、ブラックボックス化している投資案件も少なくない」(大手生保筋)。こうした中、金融庁がソルベンシー比率の変更というメッセージを発したことが「財務を好転させるため、日本のセイホが最後の大勝負に出てくる」とのヘッジファンドの読みにつながっている。
現在、金融市場で話題になっているのが、あるヘッジファンドに入った「投資総額3,000億円、要求収益率20%」という超大型の案件だ。投資期間は年度末の3月末までという。
例年、年度末に決算の帳尻合わせを行う目的で100億、200億円単位で外資系金融機関に投資を依頼したり、怪しげな外国債券を購入する動きが活発化する。だが、別の市場筋によれば、今回のような超大型案件は前例がない。
発注の主は、「大手生保の一角」(同)とされており、ヘッジファンドの読み通り、「年度末に向けて最後の賭け」が動き出したようだ。
●リスク大きい年度末の「賭け」
しかし、前述したように、米国経済の減速とともに世界経済全体が調整色を強める中にあっては、「どこの地域、マーケットでリターンを上げるか」(外資系運用会社)が市場参加者全てが抱える深刻な問題。3~4年前まで年利10~30%のリターンを稼ぎ出したエマージング市場も、通貨危機を経て以降は投資対象として有望でない。
こうした環境下では「市場のトレンドに逆らう“逆張り”に依存せざるを得ない」(外資系運用会社)。またデリバティブの一種であるオプション取引で、オプションの売り手となって高額のプレミアムを期待する、あるいは「逆張り」と「プレミアム期待」を組み合わせるなど、高いリターンは期待できるものの、その分リスクの高い投資スタイルに傾斜せざるを得ないわけだ。
2、3月の年度末に金融市場がパニックに陥る可能性は極めて低いと「安全宣言」を出した金融庁・日銀の金融当局。海外から信用されなかった生保の財務内容を国際標準に近づけようとの意図は理解できるものの、こうした超大型の「賭け」が示すリスクを、金融当局はどう受け止めているのだろう。
■URL
・揺らぐ「安全宣言」の確度~金融当局の国際公約に「?」
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/05/doc1895.htm
・金融システム不安は消えたか?~なおもくすぶる“火種”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/26/doc1794.htm
(相場英雄)
2001/02/07
11:20
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