1府22省庁から1府12省庁への中央省庁再編(別図)が明日6日に実施される。省庁の“一段上”に置かれる内閣府では、経済財政諮問会議が発足、官邸主導の経済構造改革論議がスタートする。これを機に予算編成権の拡散を阻止したい大蔵省(財務省)と、財政運営のノリシロを確保したい与党、そして官邸との駆け引きが本番を迎える。最終的な構図が固まるまでに一波乱ありそうな気配だが、いずれにせよ、小渕恵三前内閣の発足以来2年5カ月間続いた景気最優先の財政運営が構造改革路線にギアチェンジするきっかけになりそうだ。
●再編後の最初で最大の課題
「経済財政諮問会議の最初で最大の課題」―。宮沢喜一蔵相は、“最後の大蔵原案”を内示した昨年12月20日、中央省庁再編後に財政構造改革への助走に入る決意を表明した。中央省庁再編の目玉として経済財政諮問会議が発足し、首相の権限強化を目的に他省庁の格上の組織となるこの会議では、マクロ経済や危機管理など重要施策に関する総合戦略立案の任務を負う。この図式でいうと、政府の財政運営で大蔵省主導色が一挙に薄まり、財務省に名称変更する大蔵省は、予算編成の実務を淡々とこなす“普通の省庁”になる。
しかし、話はそう単純にはならない。GDP(国内総生産)500兆円、2001年度の一般会計規模48兆6,524億円、さらに借換債を含めて98兆円という国債発行管理を行う財政政策を、財務省の手を離れて指導することは事実上、不可能に近い。
いまの経済企画庁を経済諮問会議の事務局に位置づけ、気鋭のマクロ経済専門家を抱える経済社会総合研究所とともに300人弱の布陣で、日本の経済ビジョン、マクロモデルが構築されるが、税財政運営に限っていえば、永田町と霞が関という複雑な径路で意志決定され、完成品が仕上がっていく。「特定官僚の手を経ずして予算など編成できない」とある大蔵省幹部は断言する。
●森首相が財政改革を指示
再編初日の6日に開かれる経済財政諮問会議の初回会合では、宮沢蔵相がかねて主張してきた「社会保障のあり方、国と地方の関係を含む社会経済構造改革としての財政構造改革」の必要性を述べ、森喜朗首相から財政構造改革を視野に入れたマクロ経済モデルの作成について正式に指示がなされるはずだ。このモデルに基づき、早ければ2001年末には、わが国の財政構造改革の選択肢が提示される。
世界第2位の規模を誇る経済にメスを入れるのと、岩田一正東大教授、大村敬一早大教授といった当世代一流の計量経済学者が議論するマクロ経済モデルとは意味合いが異なるのは素人でも想像がつく。現実の世界には族議員が跳梁跋扈(ばっこ)し、官僚と政治家が結びついて“複線型”の意思決定メカニズムが働く。しかも、「市場の時代」に突入し、農産物価格を筆頭に政治が介入する領域が狭まってくると、必然的に政治家、利益集団が財政に向ける視線もおのずと熱くなる。
●橋本Vs.亀井の影で揺れる与党関与のメカニズム
森首相が昨年の衆院選後に、経済財政諮問会議の発足に先立ち、与党政策責任者、幹事長をメンバーに加えた「財政首脳会議」を設け、予算編成の基本方針を策定したのも、こうした構図を意識したためだ。もっとも、一般に流布されているように、この財政首脳会議は省庁再編に向けた最後のエースとして登板した武藤敏郎大蔵事務次官が首相に提言したものであった。
つまり、与党との調整機能を公式な会議の場に置くことによって、大蔵官僚があらかじめ予算案のノリシロを想定し、政治の世界で詰めさせるという手法だ。政治の現実からすると、合理的なシステムであり、多くが省庁再編後も財政首脳会議のような組織が存続すると確信していた。
ところがである。第2次森内閣に行革担当相として入閣した橋本龍太郎元首相は、「仏に魂を入れない改革」とばかりに、反発。行革本来の狙いである内閣府機能の強化に固執し、財政首脳会議は廃止されることとなった。発案者である大蔵省も、初動の遅れから内閣府人事では全敗し、内閣官房の主要ポストはことごとく旧内務官僚閥に抑えられてしまった。
このままでは予算編成権は実質的にも、財務省の手を離れてしまう。宮沢蔵相でさえ、「与党にも動いてもらいたい」と現実的な決着を期待する。現実論か原則論か―。と論点を整理したところだが、経済財政運営で独自色を発揮しつづけたい自民党の亀井静香政調会長の影も指摘され、橋本Vs.亀井の仁義なき闘いの様相を深めている。
いずれにせ、2年5カ月もの間封印されてきた財政構造改革の議論が浮上するのは間違いない。それも2001年末まで、実に日本的で緩慢なペースで進む。それまで、財政破たんの時計の針が確実に回っていくのも確かだ。
■URL
・中央省庁等改革(首相官邸)
http://www.kantei.go.jp/jp/cyuo-syocho/index.html
(北見優)
2001/01/05
11:13
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