FINANCE Watch
米、公定歩合を追加引下げ~連続利下げの背景に信用危機

  FRB(米連邦準備制度理事会)は4日(現地時間)、前日に続いて公定歩合をさらに0.25%追加引き下げ、年5.5%にすると発表した。全12の地区連銀からの要請を受けたもの。2日連続の0.25%利下げにより、下げ幅は0.5%となった。FRBは前日、公定歩合とともに短期金利の誘導目標となるFF(フェデラルファンド)金利を0.5%引き下げ、即日実施すると発表した際、公定歩合についてはさらに0.25%幅の引き下げの用意があることを明らかにしていた。

  ●「景気減速」では説明がつかない
  市場では、米国の経済指標の中でも最も重視されている雇用統計が5日に発表されるため、「利下げ決定は最短でも5日以降」とみていた。決定のタイミングだけでなく、FF金利の引き下げ幅0.5%は予想を上回り、3日の声明で「公定歩合をさらに0.25%引き下げることをいつでも容認する」と追加利下げをあらかじめ表明した点も全く前例のないこと。2日連続の政策変更を実施したことで、米国の金融経済情勢を巡って緊迫感が高まっている。

  不可解な公定歩合の2段階引き下げについて、市場ではひとまず「FRBを構成する各地区連銀の意見が3日にはまとまらなかったのが、4日になって『0.5%下げ』でまとまった結果だろう。FF金利変更はグリーンスパンFRB議長の権限が大きいが、公定歩合は地区連銀の要請で変更する建前になっており、『2段階』になったのは多分にテクニカルな要因ではないか」と受け止めている。

  それにしても、米経済の減速傾向は明らかとはいえ、市場には「FRBがここまでサプライズの極大化を狙う理由は、『売り上げや生産のさらなる減少や消費者心理の低迷』という実体経済の減速では説明がつかない」(投資銀行関係者)との分析が広がっている。注目されるのは、FRBがもうひとつ「金融市場の引き締まり」を緊急利下げの理由として挙げている点だ。

  ●膨らむ米銀の不良債権
  1994年以来、定例のFOMC(連邦公開市場委員会)でしか政策を変更しないとの原則を破ったのは、98年10月のロシア危機に伴うヘッジファンド破綻で市場が混乱した時だけだった。今回の緊急利下げに、当時の状況を連想する関係者が多いのは、むしろ自然だ。

  不気味なのは、98年におけるロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)破綻のような、明確な危機が見えないこと。

  ただ、市場関係者が指摘するように、金融機関がベンチャー・キャピタルの追加融資や借り換え融資に極めて慎重になっており、その背景として「米銀の不良債権がかなりの高水準に達し、信用供与を意図的に絞らざるを得なくなっている」(都銀系エコノミスト)のは確かなようだ。

  それに加え、トルコの金融危機をはじめ、東アジア、東欧、中南米など新興市場の資産価格が軒並み低落していることも、米国の機関投資家、金融機関をボディーブローのように痛めつけている可能性がある。また、「平均株価で1万3,000円台にまで落ち込んだ日本株投資の損失も無視できない」(同)という。

  98年危機の際は、日米欧が一斉に金融緩和措置に踏み切るなど足並みをそろえた。しかし、今回、日本には金融・財政政策の発動余地はほとんど残されていない。

  3月末の決算期に株価が一段の下げを演じ、銀行、生保などの経営問題に発展すれば世界的な信用収縮の危機の火種に油を注ぎかねないだけに、2月初めのG7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)などの舞台で綱渡りの政策運営を迫られることになりそうだ。

■URL
・FRBの声明文
http://www.federalreserve.gov/BoardDocs/Press/General/2001/20010104/default.htm
・利下げで米ナスダック指数が過去最大の上げに
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/04/doc1581.htm

(小倉豊・沖野宗一)
2001/01/05 12:27