情報は時とともに劣化する・・・
【1面トップ】
●「景気よくなる」と思いますか?
海外では、中東和平交渉にFRB(米連邦準備制度理事会)の緊急利上げと、年明けからニュースが目白押しだが、日本は3日まで正月休み。各紙の1面トップも年末に仕込んだと思われるネタで埋められた。
毎日は、主要企業101社を対象に実施した景気アンケート調査の結果。それによると、60%の企業が「今年は良くなる」と回答しているが、53%が公共事業規模の現状維持を望むなど「多くの企業が政府の財政出動による景気の下支えを求めており、景気の腰折れに対する不安感は依然根強い」という。
景気回復は政策頼み。日本経済はいまだ「厳冬」にあるということか。
◇2002年6月に横浜で行われるサッカーW杯決勝戦の一般向けチケットは、全体の約7万席のうちわずか1万席分程度しか販売されない、と読売が報じている。
今朝のテレビを観ていたら、通産省OBの経済評論家が「ファンは怒るべきだ」と声を枯らしていたが、一般向けのチケットがこの程度にとどまることは当初から予想できた。商業主義剥き出しの日本組織委員会には、庶民の怒りも織り込み済みで、読売も「驚異的な“プラチナチケット”となりそうだ」と論評するにとどまっている。
◇倒産したそごうの取引業者98社が一昨年、自民党の木村義雄代議士に合計で1,740億円の政治献金を行っていたことが東京の調べで明らかになった。
木村代議士はそごうの水島広雄前会長の甥で、同社の顧問を務めていた。これだけの関係があれば合点がゆくが、「半ば強制的」に献金を募っていたとは・・・。
◇産経は、執拗に追い続ける外務省OBの教科書不合格工作の続報。教科用図書検定調査審議会の委員だったOBの不合格工作に外務省が関与していたことを立証する文書を入手したという。
◇このほか、日経は食品リサイクル法関連のニュース、朝日は元日からスタートした連載企画<日本の予感>の第3回。
【経済面トップ】
●FRB、緊急利下げに踏み切る
正月休みが1日だけの海外では2日から市場がオープン、ニューヨーク株式市場は大幅安で幕を開けた。3日も不安定な展開となり、朝日は経済面トップでFRBの緊急利下げの観測も浮上していると報じた。
はたしてFRBは、市場の観測通り、短期金利の指標であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を現行の年6.5%から0.5%引き下げ、年6.0%にすることを決め、即日実施。株価指数は反発に転じたが・・・
◇他紙の経済面トップは、1面トップと同様、年末に仕込んだネタや企画物で経済面の体裁を整えている。
読売は経済財政諮問会議、日経は医療・がん保険の販売競争。毎日は、1面トップで報じた景気アンケート調査の詳報、産経は世界経済特集で紙面を埋め尽くしている。
【元日のトップ記事】
●「お化け」は出なかった
ふだんなら<園児ら一家4人惨殺>の衝撃的な大事件が日経以外の5紙のトップを飾るところだが、めでたい元日のトップニュースにはしにくい。6紙とも、独自物や企画物で1面を埋めた。が、その出来映えは・・・
◇朝日<壁越えアジアに融合:日本の予感(1)>
「壁が溶けてる」。こんな書き出しで始まる今世紀最初の連載企画の初回は、1・2・3面ぶち抜き(上段のみ)。通常国会の総理大臣の所信表明演説並みの長さだ。読み応えがあるというよりも、長いよ。3日朝刊も1・2・3面ぶち抜き(上段のみ)でやってたが、何で1頁にまとめないのかね。元日の別刷りは、<いのち新世紀>など。
◇読売<燃料電池車開発へ、トヨタ・GM・エクソン連合>
このニュースのポイントは、もともとあるトヨタ・GM連合にメジャー(国際石油資本)の米エクソン・モービル社が参加する点。この組み合わせが事実で、彼らがシャカリキに取り組めば燃料電池車のデファクト・スタンダード(事実上の標準)は3者連合が掌握する可能性は高いが、3日の紙面で追随した社はなかった。
お屠蘇気分のライバル記者に後追いさせるには、相当なインパクトと信憑性が必要なのです。元日の別刷りは、<21世紀宇宙旅行>など。
◇毎日<「2島返還」宣言文書化、ロシア大統領、昨秋の会談で約束>
昨年11月の日露首脳会談で、プーチン大統領が2島返還に間接的に言及、次回首脳会談で文書化することを約束していたという。これで、森喜朗首相が早期訪ロにシャカリキになっていた理由が分かったが、ロシア側はやはり2島しか返すつもりがないということか。これも後追いなし。元日の別刷りは、<第2朝刊>など。
◇産経<政界工作、本格追及へ、KSD使途不明金1億4,000万円、東京地検特捜部>
地検物も正月恒例。今年は産経がKSD(ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団)の政界工作をトップに持ってきた。が、新事実はKSDの使途不明金が1億4,000万円に上るということくらい。<政界工作、本格追及>も、いずれはそうなると思っていた。
産経の地検担当記者は敏腕らしいが、既定路線を後追いする社はなし。元日の別刷りは、<21世紀の日本>など。
◇日経<道の文明へ一歩:技術創世紀>
経済物で勝負と予想していたのだが、見事に外れ、技術革新が近未来をどう変えていくかという連載企画をトップに持ってきた。無理筋の“スクープ”よりも読み物で日経らしさを出していく。妥当な判断である。
ところで、朝日にも似たような企画記事が掲載されており、タイトルも『技術創世記』と酷似している。『紀』まで一緒だったら面白かったのに。元日の別刷りは、<デジタルが描く夢の未来地図>など。
◇東京<21世紀幕開け、1万人読者アンケート結果>
21世紀最初のトップ記事を読者アンケートに委ねる姿勢は、はたして安易か。無理筋の“スクープ”や誰も読まない企画記事よりはましではないでしょうか。元日の別刷りは、<いのち新世紀>など。
◇正月早々ですが、「反省の弁」をお聞き下さい。
「31日か1日の某紙トップ記事はどでかい経済記事になりそうです。その解説は・・・、1月4日までお待ち下さい」
12月29日の『瓦版一気読み』でこんなことを書いてしまったことを素直に反省してます。筆者も元日の「お化け」に惑わされていたようです。
[メディア批評家 増山 広朗]
2001/01/04
09:09
|