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国際経済研究所副理事長 中平幸典氏
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日本経済、世界経済ともに21世紀の幕開けを微妙な局面で迎えた。20世紀末の10年間に脅威的な持続的成長を遂げた米国経済は、波乱なくスローダウン軌道に乗って行くのか。また、対照的に“失われた10年”を経験した日本は、IT関連の投資や消費をばねに景気回復を確実なものと成し得るのか。元大蔵財務官の中平幸典・国際経済研究所副理事長(略歴)に、21世紀のスタート台に立った世界経済を展望してもらった。
(聞き手 編集長 池原照雄)
――日本をはじめ、世界経済に多大な影響を与える米国経済はどのような動きになるでしょう
中平:1990年代の米国は、ITへの積極的な投資を背景に株価上昇―消費向上―設備投資拡大という好循環で回って来た。その間、1998年のアジアでのような通貨危機が何度かあったが、それが適度に経済を冷やす効果があった。しかし、1999年からは大きな通貨危機はなく、成長率、株価とも明らかに行き過ぎとなった。そこで矢継早に6回に渡る利上げが行われ、意図したことだが(米景気は)冷め始めている。
米ナスダックの指数は、1999年夏から2000年3月までに倍になった。これには実のあるもの、無いものがない混ぜとなっており、昨年末になって剥がれたということだ。また、すでに貯蓄率がマイナス、つまり可処分所得以上の消費を行う局面になっており、これも行き過ぎ。
――当面注目されるのは、金融政策ですが
中平:ソフトランディングさせるための、金融政策は非常に難しくなった。しかし、過去10年間のカジ取りに対する信頼感が高いため、ソフトランディングできる可能性の方が大きい。12月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、次はニュートラルから緩和だよと明確にしているわけだから、いつでも(利下げは)できる。
――次のFOMCは月末ですが、臨時も含めて1月利下げの可能性も?
中平:米国の昨年7-9月期のGDP成長率は、確報では2.2%と、かなり低くなった。さらに10-12月期は2%水準との弱気な見通しもあり、下ぶれに行き過ぎだと判断すればだが(1月利下げの)可能性はある。
――日本の展望は
中平:大変緩やかだが、回復の軌道で来ている。明らかに民間設備投資が引っ張っている。時間外労働時間や電力需要、新車販売など全体的にプラスの指標も増えてきた。今の時点では今年も設備投資は堅調に推移すると見ている。心配なのは、やはり株式市場だ。米ナスダックを反映して動くようになっており、その連関性は85%という指摘もある。日本の実体経済を反映していないのだが、企業家心理や消費者心理への影響は無視できない。米景気のスローダウンは、日本、アジア、欧州への株価にも波及するだけに、病みながら回復している日本にとってこたえる。もちろん、米景気のスローダウンは日本からの対米輸出、さらにアジア向け輸出の減退にもつながる。
――1990年代の停滞から脱する条件は
中平:日本経済は戦後の高度成長期、さらに1970年代の石油ショック後も、常に欧米に比べて高めの成長を続けてきた。それを前提に、財政や金融、保険、年金などの制度・商品ができていた。ところが1990年代になってそうした制度や慣行に限界が来た。それを変えるのが構造改革だ。改革によって低めでも成長できる経済構造に転換しなければならない。高め成長願望からの転換は、政府、企業だけでなく国民も意識改革が必要だろう。ITが経済の構造改革に果たす役割は大きくなろうが、それだけでなくモノづくりの技術力などにも更に磨きをかける必要がある。20世紀は欧米をキャッチアップするために、ひたすら走って来たが、21世紀は独創性や比較優位性を念頭に置かねばならない。
――最後に2001年の世界経済を概観してください
中平:2000年という年は、世界経済全体としては非常に好調な年だった。米国はスローダウン過程にありつつも高い成長率を確保し、欧州は成長過程にある。旧共産圏諸国もようやく市場経済が浸透してきた。IMFの世界経済見通しでは、2000年は4.7%と高い成長となりそう。そういった意味では2001年の世界経済はスローダウンすることになる。とくに米経済がうまくソフトランディングできるかどうかが、大きな要素となる。さらに、1990年代は、金融のグローバル化が一気に進み、資本移動が非常に大きくなった。実体経済を反映しない株価に振り回されるリスクもある。日本としては、そうした金融資本市場の構造変化にも従来以上に留意する必要があろう。
■URL
・中平幸典・国際経済研究所副理事長 略歴
http://www.watch.impress.co.jp/finance/report/words/000913-1.htm
(池原照雄)
2001/01/01
08:35
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