2000年の銀行業界は、昨年夏の第一勧業、富士、日本興業の3行統合(みずほフィナンシャルグループ結成)の余波で大手行の再編が進み、「4大銀行グループ」の輪郭が固まったことに特徴付けられる。金融システムの動揺は、1997、1998年の大型金融破綻の代償で用意された総額70兆円の公的資金と、公的資本注入の実施で小康を得ている。
生保、信販会社、百貨店など、大型倒産にもかかわらず、ジャパン・プレミアムの上昇といった信用の収縮は起こっていない。ただ、年末が迫る頃から、米経済の急減速の影響を受け、平均株価が1万3,000円台に軟化。実体経済の先行きにも不透明感が広がったことで不良債権処理問題にも再び市場の注目が集まっており、来年にかけての銀行経営に暗雲の気配も兆している。
●大手行は4グループに集約
2000年の新年は、前年末、公的資金枠の10兆円の上積み、ペイオフの2002年4月までの1年延期、生命保険契約者保護機構の破綻処理資金への4,000億円を上限とした国の補助金設定など、金融システムへの安全措置の補強を受けて迎えることになった。
民間サイドでも、みずほ、三井・住友銀行の合併発表に続く形で、3月に三和、東海、あさひ銀行の経営統合発表(6月にはあさひ銀行が離脱)、4月には東京三菱、三菱信託の経営統合発表で、4大銀行グループが姿を現した。
株価も4月には2万833円まで上昇。「三菱東京フィナンシャル・グループ」は、国から受けた注入資本の返済に踏み切っている。しかし、5月の大手16行決算発表では、業務純益2兆9,000億円に対して不良債権処理額は4兆6,000億円に上り、景気の回復基調にもかかわらずこの問題の最終的解決の難しさが予感される。
銀行経営の安定と裏腹に、債務者側には波乱が少なくなかった。ゼネコンではハザマ(5月)、熊谷組(9月)が、総合商社でもトーメン(2月)が巨額の債権放棄を要請。そごう(4月)は、債権放棄の要請先に旧長銀が含まれていたことから、結果的に国民負担を求める形となり、政治的反発を浴びて民事再生法の適用申請に追い込まれる大混乱を招いた。この間、長銀系の第一ホテル、信販会社のライフなど大手企業が会社更生法手続きに入り、長銀処理の混乱の余波も続いた。
一方、生保経営には資産運用環境の悪化から激震が走ったが、10月に破綻した千代田生命保険をめぐっては、東海銀行が支援姿勢を途中で覆し、メインバンクが支援を貫徹する金融慣行が過去のものになりつつあることを印象づけた。
●追加資本注入の観測も
1年を通して金融システム全体の不安感は確かに後退。この背景には、輸出や生産の伸びで企業の収益が大幅に回復したことが大きい。日本の実質GDP伸び率も、1月から3・4半期連続でプラス成長を記録している。これを受けて、日銀は8月に1年半に渡ったゼロ金利政策の解除に踏み切った。政策金利の引き上げは、実に10年ぶり。銀行界では、当時、日本経済の再生をアピールする動きとして、容認の声が勝っていたと言ってよい。
ただ、景気の回復基盤と、金融システムの再建の度合いは依然として脆弱だ。懸念材料はいくつもある。
日本の経済動向を大きく左右するのは、世界経済の牽引役である米国の情勢。米連邦準備制度理事会(FRB)は、景気過熱を抑えるために99年6月から金融引締めを続けていたが、4月の先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)直前にニューヨークのダウ平均株価が急落を演じるなど緊張が高まった。その後も米株価は一進一退の調整を続けたが、年末近くになって住宅投資投資などの大幅減少、成長率低下、株価の大幅下落を受けて、ついにFRBは金融政策スタンスを「緩和」に変更するに至った。
12月に入ってから、対米輸出に大幅に依存していた日本、アジア諸国は米経済の急減速の直撃を受けている形だ。
東証平均株価は12月21日に1万3,423円まで低下、この水準では大手行の含み益はほとんど消えたとみられ、3月末の決算対策を強く意識せざるを得ない状態だ。また、4月から、金融再生法、金融機関の早期健全化法が期限切れを迎えることから、駆け込み的な追加資本注入の観測も流れるなど、にわかに、金融システムを巡って不透明感が広がっている
(小倉豊)
2000/12/29
10:20
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