保険業界にとって20世紀最後の年は、相次ぐ経営破綻と生き残りをかけた再編が錯綜する激動の1年だった。損害保険業界は、保険料自由化で体力勝負の価格競争に突入。生命保険業界は、経営不振が招く解約増と、超低金利下の運用利回りが契約者に保証した利率(予定利率)を下回る逆ザヤの拡大というダブルパンチに見舞われた。経営環境の悪化と消費者ニーズの多様化は、生損保の業態を超えた連携、いわゆる「総合保険化」を促し、この流れは「第3分野」解禁などの規制緩和が進む来年以降、さらに加速しそうだ。
●損保の合従連衡で幕を開ける
今年の保険業界は、損保会社の再編で幕を開けた。保険料自由化に伴う低価格商品と新サービスの開発競争を背景に、住友海上火災保険(8753)・三井海上火災保険(8752)=三井住友海上火災保険=、日本火災海上保険(8754)・興亜火災海上保険(8762)=日本興亜損害保険=、大東京火災海上保険(8761)・千代田火災海上保険(8758)=あいおい損害保険=の6社3組が合併計画を発表した。
さらに、7月に発足した金融庁が、保険会社間の相互販売を認める方針を打ち出したことで、生損保の垣根を越えた大型再編に火がつく。みずほフィナンシャルグループに近く、生損保業界2位同士の第一生命保険と安田火災海上保険(8755)が8月末に包括提携を締結。その後、安田火災は日産火災海上保険(8756)、大成火災海上保険(8765)と2002年4月の合併で合意し、同一グループ内の保険事業が集約された。
●系列を超えて
ただ、みずほ系でも朝日生命保険と日動火災海上保険(8760)は、三菱グループで損保最大手の東京海上火災保険(8751)との経営統合を選択。生保の雄である日本生命保険は、住友海上と三井海上から企業向け損保商品の供給を受けることで合意し、銀行を中心とした系列の壁を突き崩した。
また、がん保険や医療保険など「第3分野」が国内大手保険会社に解禁されるのを控え、第一生命はがん保険最大手のアメリカンファミリー生命保険から商品供給を受けることを決めた。全商品を独自開発する自前主義と決別し、他社との業務補完で効率経営を図る戦略は、保険会社の苦しい台所事情を映し出している。
●わずか半年で4生保が破綻
こうした派手な再編の裏では、熾烈な生き残り競争からの“落伍者”も続出した。
5月、第一火災海上保険が損保では初めて破綻、既契約管理会社だった第百生命保険も金融監督庁(当時)から業務停止命令を受けた。8月には、持ち株会社社長による巨額詐欺事件の舞台となった大正生命保険が破綻に追い込まれた。
金融機関の再建型倒産法制である更生特例法が保険会社にも適用可能になり、10月、バブル期の不動産投融資が焦げ付いて収益を圧迫していた千代田生命保険と、米大手生保との資本提携交渉が失敗した協栄生命保険が相次いで同法の適用を申請した。
わずか半年間に生保4社が“消滅”する異常事態に、契約者の不信感はピークに達した。連鎖破たん防止に向けて、金融庁では予定利率引き下げなどの経営改善策が検討されたが結論は出ていない。
●2001年も再編の年に
また、度重なる破綻処理で、債務超過額などを穴埋めする生命保険契約者保護機構の財源(業界負担と公的資金を合わせて9,600億円)が払底する恐れが生じている。今後、保険会社のセーフティネット拡充に向けた議論に発展する可能性がある。
景気回復の足取りは依然重く、価格競争や低金利下の運用難など、保険業界を取り巻く環境に急激な改善は見込めない。まだ再編に乗り出していない明治生命保険や安田生命保険などの主要生保の動向を焦点に、銀行・証券などの他業種を巻き込んだ業界の再々編・淘汰は、2001年も引き続き注目を集めそうだ。
■URL
・10月に保険ポータルサイトも構築~第一生命と安田火災が包括提携発表
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/28/doc263.htm
・関心集める東京海上の「拡大志向」~ガリバーの本音は?
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/01/doc901.htm
・2002年4月の合併、正式発表~安田、日産、大成の損保3社(続報)
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/02/doc922.htm
・社名は「三井住友海上火災」に~2001年10月合併の三井・住友海上
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/05/doc1276.htm
(斎藤三郎)
2000/12/28
10:30
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