【ネット証券の胎動】
●「価格破壊」でタブー破る
2000年の株式市場で、大変革のインパクトをもたらしたのがインターネットを使ったネット証券会社だ。
1999年10月の株式売買委託手数料の完全自由化を追い風に、ネット証券は既存の証券界の壁を次々に打ち砕いてきた。インターネットというITの基幹技術を存分に活用することで、しつこい証券マンの投資勧誘は不要となり、異業種からの参入も相次いだ。
オンライン取引サービスを提供する証券会社は、昨年9月の29社から現在は約60社と倍増。口座数も130万を超え、2004年には500万口座に達するとの予測も出ている。株式委託手数料だけでなく、投信販売の実質的な手数料値下げが相次ぐなど、金融界で永きに渡ってタブー視されてきた「価格破壊」も促している。
●仕手戦に巻き込まれる個人投資家
ただ、ネット証券の活況はいいことづくめではない。
日本人は欧米人と比べ「農耕民族的」な性格が強く、投資よりも貯蓄性向が強いとされる。が、「NTT株の初回売り出しの際は、万人が競って株式購入に邁進した」(外資系証券ストラテジスト)こともある。一度走り出すと歯止めが利かなくなるという日本人の独特の集団心理が、ネット証券の出現で「より助長される可能性がある」(同)というのだ。
実際、こうした懸念は的中しつつある。従来であれば個人投資家の大半は、マネーゲーム的な色彩を持つ「仕手戦」とは縁遠い存在だったが、「ひと癖もふた癖もある仕手銘柄への集中投資がネット証券からの手口で目立ちつつある」(大手証券のディーラー)。従来であれば馴染みの証券会社の営業員とツーカーでなければ参入できなかった仕手戦に「ネット経由でいくらでもアクセスが可能になった」(同)というわけだ。秋口からアラビア石油(1603)、ジャパンエナジー(5014)、日商岩井(8063)などの株式が新手の「仕手株化」したのはその典型だ。
証券界の古い商慣行に大きな風穴を空けたネット証券の存在は、間違いなく今年の目玉ひとつ。乱立気味の会社同士の合従連衡があっても、その存在自体がなくなることはないだろう。
しかし、投資に不慣れな新人投資家の多くが、ネットを通じた新種の投機戦に巻き込まれるリスクが各段に増大したことは否めない。取引の場を提唱するネット証券、取引に参加する個人投資家は、新たな証券取引のモラルを走りながら作り出さざるを得ない状況に直面している。
【持ち合い解消の恐怖】
●衝撃与えたアナリストのリポート
6月下旬、国内証券の銀行アナリストが発行したあるリポートが国内外の機関投資家に衝撃を与えた。銀行と企業が互いの株式を保有しあう「持ち合い」が時価会計の導入で2001年度から事実上不可能になるため、日本の大手銀行が保有する株式を売り切る、というのがリポートの主旨だ。
大手銀行は、2~3年前から不良債権処理の原資に充てるため、持ち合い株式の売りを進めてきた。1995年から5年間では約6兆円が処分されてきたが、同リポートは今年度末までにこの半分に当たる3兆円が市場に放出される、と鋭く指摘した。
このリポートの発表前、金融監督庁(現金融庁)は銀行の自己資本比率算定の新ルール適用を公表。同リポートが、当局の公表を個別行ごとの経営実態に合わせて掘り下げ、「どこがいくら売ってくるのかを非常にタイムリーな形で投資家に届けた」(同)ため、機関投資家に動揺が走ったわけだ。
当局の新指針は、銀行が保有する有価証券の評価差額について、評価益はその45%を自己資本比率の補完的項目(Tier2)に算入する一方で、評価損は税効果調整後の全額を基本的項目(Tier1)から控除するというもの。つまり、相場下落で保有株式の含み損が膨らんだ場合は「自己資本比率がもろに影響を被る構図」(都銀幹部)に2001年3月期決算からルールが変更されるのだ。
このリポートが示した通り、平均株価やTOPIX(東証株価指数)が上昇した局面では大手銀行から大量の売り物が持ち込まれ、株価指数の上値を抑える役割を果たした。また株価下落局面では売り急ぎの傾向が強まったため、自民党の亀井静香政調会長のような「銀行に株を売らせないようにしろ」との暴言をも誘った。
●含み経営脱却の副作用
時価会計の導入とともに、銀行は事実上株式の持ち合いが不可能となる。今年はその清算の最後の年だ。経済の動脈ともいえる銀行の経営体力が、その保有株式の上下動による影響を受けなくなるのは、「100%正しい方向」(日銀幹部)といえよう。
しかし2001年3月末に向け、銀行サイドから更なる売り注文が持ち込まれるのは確実。特に決算期末を間近に控えた来年1月下旬から2月中旬にかけては、持ち合い解消に伴う売り注文が一段と増加することが間違いない。
内外の機関投資家は既にこれを予想してある程度の下げを覚悟している。また海外投資家の多くが「ようやく邦銀が含み経営から脱却できる」(米系証券)と持ち合い株の放出を歓迎している。
しかし目先の株価下落は必至で、先の亀井会長のような発言が実際に目先の株価対策として持ち出される可能性もある。万が一、亀井型の政策が実行されれば、21世紀の初頭で日本株式は大きなしこりを作ることになる。
【米国経済、予想外の失速】
●米企業の業績、一段と悪化か?
2000年秋口から、米国のハイテク企業の株価を映すナスダック(店頭市場)総合指数が下げ足を速め始めた。12月21日には一時2,282ポイントまで下落、年初からの下落率は40%に達した。
日経平均株価の採用銘柄入れ替えとともに、同指数は「日経ナスダック指数」といえるほど値動きが均一化。「必要以上に米国動向が日本の株価に反映される」(欧州系証券幹部)状態となったことから、“本家”ナスダック指数の低迷は、景気回復の先行き不透明感が強まってきた日本市場を直撃する格好となった。
これに追い討ちをかけるように、年明け後問題がさらに深刻化する。来年1月中旬から、米主要企業の2000年第4・四半期の決算発表が本格化。市場では「2000年秋口からの米経済の減速で悪い中身が相次ぐことは織り込まれ始めている」(米系資産運用会社)。つまり、来年初の米国の株式市場は「悪い」ことが既定路線としてある。
問題は、この時期に発表される2001年第1・四半期の見通しが「どの程度悪化するか」(同)である。現在、米FRB(連邦準備制度理事会)は経済のハードランディングを避けるべく、利下げの方向に金融政策の舵を切り出している。しかしFRBの舵取りが後手に回っているとの懸念が根強く、2001年第1・四半期の企業業績が一層悪化するとの見方も急速に広がっている。
●株価1万円割れも
当然ながら米国株の底値がどこになるかを探っている現在の日本市場を鑑みれば、来年初のタイミングで現状レベルよりも株価指数が上向く可能性は極めて低い、との予想が成り立つ。
前述したように、来年初から3月の年度末に向けて銀行の持ち合い解消売りがピークを迎える時期に当たり、日本株が一段と低迷を強いられるのは必至の情勢だ。この際、思わぬ大型の企業倒産が出てくることも考えられ、「平均株価が1万円の大台を割り込む最悪の事態も十分考えられる」(銀行系シンクタンク幹部)。
4月高値を境に一環して下げ歩調をたどった2000年の株式相場。しかし下げ要因の中には「日本の経済構造の膿を吐き出させる効果もあった」(銀行系証券エコノミスト)ともいえる。1990年以降バブル経済崩壊の後遺症に苦しんできた日本経済は、あと数カ月試練を強いられそうだが、これをてこに上伸に転じるのか、再び底割れするのか、正念場を迎えることになる。
■URL
・オンライン証券口座、2004年には585万へ~IDCジャパン調べ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/10/doc999.htm
・クロス取引の規制緩和でPKO?~自民の株価対策に失笑再び
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/01/doc1233.htm
・株価は低迷のまま新世紀に~“持ち合い解消”止まらず
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/18/doc1431.htm
・2000年証券市場回顧~ITバブル崩壊、持合い解消で下げ続けた1年(上)
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/27/doc1562.htm
(相場英雄)
2000/12/28
09:36
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